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段ちゃんの「知っておきたい!中国のコト」

第16回 出会いと別れの“儀式”について=段文凝

桜の花と入学式と カルチャーショックだった日本の“儀式”

 春爛漫(らんまん)――この言葉がぴったりな季節になってきました。川のほとりや公園、神社、お寺。いたるところに桜が薄いピンクのかわいらしい花を咲かせています。この記事が掲載される頃には、花もやや散り始め、代わりに黄緑色の若葉が顔を出しているでしょうか。 毎年約束のように咲く桜の花を見ていると、この季節に幾度となく繰り返された出会いと別れの“儀式”に、どうしても思いをはせてしまいます。“儀式”とは“入学式と“卒業式”です。日本では4月からが新年度の始まりです。

     私が、初めて日本に来て“入学式”や“卒業式”を体験した時は、とてもカルチャーショックを受けました。特に自分自身が参加した早稲田大学大学院の卒業式は、今でもはっきりと覚えています。文学部のキャンパスにかつてあった大きな体育館に卒業生が集められ、やや緊張した様子で式が始まるのを待っていました。男子学生は羽織袴(はかま)だったり、スーツだったり。女子生徒は振り袖に袴という定番のスタイルの人が多かったです。私もその日は振り袖に袴でした。式の冒頭には大学の校歌がバイオリンで奏でられ、角帽をかぶった先生方が校旗と一緒に入場してきました。まさに“儀式”そのものの雰囲気と厳粛さでした。式を終えて体育館の外に出てみると、空には晴れ渡った青空が広がっていました。まるで、式が始まる前と終わった後では、自分が別人になったような、不思議な感覚があったのを覚えています。

    2014年に早稲田大学大学院を卒業しました。振り袖を着ると自然と背筋が伸び、卒業したんだなぁと実感することができました。

    中国の“卒業式”と“入学式” 大きなイベントとセットになった通過点?

    中国の入学式や卒業式についてお話ししましょう。中国では秋学期制を採用しているため、9月が新年度の始まりの月になります。中国の卒業式は、日本の卒業式ほどはっきりとした“儀式”という感じがありません。それもそのはず、卒業式よりもその先のビッグイベント“夏休み”のほうにみんな意識が向いているからです。それに卒業式が行われる7月は、中国でももう夏です。こんなに暑い中、日本のような儀式をしたら……考えただけで熱中症になりそう!そして夏休みの間は、思いっきり遊びます。友達と別れを惜しむ時間がたっぷりあるのです。誰かの家でお別れパーティーを開いたり、一緒に小旅行をしたり。別れは確かに切ないけれど、とりあえずみんなで思い出作りに励みます。そして、遊び尽くして疲れてきたころに、新学期が始まります。9月、入学式が行われる前にもまた一つ重要なイベントが待っています。“军训(ジュンシュン)”と呼ばれる、新入生向けの軍事訓練です。昼は皆で運動場に集まり、整列したり、運動場を走ったり、ひたすら立ち続けたり。夜は、宿泊所にみんなで泊まります。朝になると、合図とともに一斉に起きて、布団を真四角の豆腐のように畳みます。そうこうしているうちに、入学式が行われるのですが、そのころにはもうみんな顔見知り。あだ名で呼び合ったりして新生活をスタートさせるのです。

    満開の桜と同時に あなたに一歩を踏み出させる“儀式”

     日本と中国の“儀式”に対する考え方の違いは、それぞれの学期制の違いや、国民性の違いなどいろいろな要因が考えられます。ですが、日本に長年暮らしていると、最初はカルチャーショックだった儀式にも、大切な意味があるのだと思えてきました。その意味とは何でしょうか。私に限らず誰でも、学校に通う3年間や4年間や6年間の間には、良いことばかりではなく、時にはつらかったり悔しかったり、悲しいこともあるでしょう。もし、“儀式”がなくて、その数年間が卒業証書という一枚の紙だけで証明されるだけだったとしたら、きっと何も印象というものが残らないのではないでしょうか。我慢をしたり、大変なことを乗り越えたりした記憶は、ずっと胸の奥深くにしまわれたまま、引き続き生活を続けることになるのです。

     ですがこの時期、長い冬に耐えた桜が一斉に花開くころに、あなたや私のために締めくくりの“儀式”が開かれるとしたらどうでしょう。粛々と音楽が奏でられ、正装した同級生の顔を見ながら、先生方の述べられる送辞を聞けば、自然と心の中で一つの区切りをつけることができます。4月になれば、学校や職場などの環境や立場もがらりと変わり、これまで毎日会っていた友達とも会えなくなります。誰しもが将来に不安を抱いています。ですが、そうした不安や、これまでの苦労に対して、癒やし、報いてくれる“儀式”があることで、何はともあれ、“終わったんだ”と思えて心が軽くなり、次へ向かって一歩を踏み出すことができるようになるのです。

     1年に一度、短い期間に一瞬だけ満開になり、あなたや私の目を楽しませてくれる桜の花。それは今から踏み出そうとする新しい道に、希望が持てるように、自然がくれたご褒美なのかもしれません。さあ、新年度です。私も心機一転、新しい私になれるよう、勇気を出して最初の一歩を、踏み出そうと思います。

    今年の桜はとくにきれいでしたね!私も先日お花見に行ってきました。

    段文凝

    (だん・ぶんぎょう)中国・天津市出身。2009年5月来日。同年まで天津テレビ局に所属。2011年4月より、NHK教育テレビ『テレビで中国語』にレギュラー出演。(2017年3月卒業)2014年早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース卒業。日中間を行き来し講演活動を行い、「かわいすぎる中国語講師」として幅広い層に人気を得ている。2015年、2016年に毎日新聞夕刊「ひ・と・も・よ・う」で取り上げられた。2017年現在、NHKWORLDのラジオにレギュラー出演。舞台や映画などを中心に女優としても活躍している。

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