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SUNDAY LIBRARY

著者インタビュー 村山由佳 『風は西から』

ニュースではどこか他人事でも小説は引き寄せて感じてもらえる

◆『風は西から』村山由佳・著(幻冬舎/税別1600円)

 村山由佳さんの最新作は過労自死で恋人を失った女性による、大企業を相手取った闘いの物語だ。恋愛小説の名手として知られる村山さんが、なぜ一見“畑違い”とも思えるテーマを選んだのか? その経緯を伺った。

「私、大事にしてきた小説とか、すごくのめり込んだ映画などにインスパイアされて小説を書くことが多いんです。この作品に関しては『エリン・ブロコビッチ』という映画。普通のシングルマザーが、大企業から米国で史上最高の賠償額を勝ち取る話で、実話なんです」

 これを小説でやってみたいと、編集者と共に題材を探した。その中から、現代的なテーマとして浮かび上がったのが、働き方の問題だった。

「で、私、恋愛小説の出ですから(笑)、その手法を踏襲しながら、どういうふうにやっていけるかなと……」

 とはいえ、自身は今まで、恋愛小説を書こうと思って小説を書いたことはないという。

「いくら個人で恋愛しているつもりでも、周りには社会があるわけで、そのつながりを無視してはこなかったつもりです。今回は、そうとうシビアな社会と恋愛が結びついたわけですね」

 物語の前半、主人公・千秋と恋人・健介の恋愛模様が丁寧に描かれる。読者のほとんどは、その先の悲劇を知りながら読み進めることになる。それが切ない。

「書き始めた頃は、もうちょっと早く健介が亡くなってしまうはずでした。でも千秋と周りの人が健介を亡くした辛(つら)さを本当に感じるには、そして読者がそれを共有するには、二人の日々が輝いていないと。ニュースで過労死を知ると、悲しいとは思うんだけど、どうしても他人事(ひとごと)になってしまう。感情移入がしにくいんですけど、小説なら、自分に引き寄せて感じてもらえる。小説には、そういう役目もあるんじゃないかと思うんです」

 主人公はもともと利発で行動的な女性だが、大企業との闘いを通して、さらに成長する姿が描かれる。そして登場するほかの女性たちも、実に凜(りん)としている。

「過労死を描きながら、もう一方で女性の仕事についても書きたかった。いわゆる“ガラスの天井”は確実に存在しますから。そんな中で、女性のたいへんさが分かるもの同士が、ゆるやかに連帯している姿とか、ですね」

 後半、こうした市井の人々がカリスマ経営者と対決する運びになると、物語は一気にドライブがかかる。読者はさらに引き込まれていく。

「専門家でない、まったくの個人が、どういうふうに大企業に立ち向かっていくのかを、リアルに見せたかった。だから主人公側に付く弁護士さんも、バリバリのカッコいい人にはしたくなかった。地味で、家族たちと同じ色合いの人。でも、やることはしっかりやる」

 いつしか読者は、主人公たちと共に怒り、悩み、そして喜びを分かち合うことになる。

「新聞連載だったので、書いている間に共感の声が聞こえてきた。モチベーションが上がって、ノッて書けました」

 「週休7日が幸幸せなのか」と言う経営者に、ぜひ読んでもらいたい。(構成・小出和明)

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村山由佳(むらやま・ゆか)

 1964年、東京都生まれ。93年、デビュー作『天使の卵 エンジェルス・エッグ』で小説すばる新人賞、2003年『星々の舟』で直木賞受賞。09年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞他受賞

<サンデー毎日 2018年4月22日増大号より>

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