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政府

海賊版サイト遮断促進 法的根拠なく、業者反発

知的財産戦略本部会合・犯罪対策閣僚会議の冒頭、あいさつをする安倍晋三首相(中央左)。同右は麻生太郎副総理兼財務相=首相官邸で2018年4月13日午前8時27分、竹内紀臣撮影
サイトブロッキングのイメージ

 政府は13日の知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議(本部長・安倍晋三首相)で、インターネット接続業者(プロバイダー)に対し、ネット上で漫画や雑誌を無料で読める海賊版サイトへの接続遮断(サイトブロッキング)を促す緊急対策を決定した。早ければ秋の臨時国会に関連法案を提出する。海賊版サイトの急速な拡大で、著作権侵害が看過できないレベルに達したと判断した。ただ、政府の事実上の要請には法的な根拠がない。検閲の禁止や「通信の秘密」を定めた憲法21条に抵触する懸念もあり、通信事業者側は反発している。【高橋克哉、岸達也】

「漫画村」など3サイトを名指し

 対策は、法整備までの緊急措置として「漫画村」など、主要な三つの海賊版サイトと、これと同一とみられるサイトに限ってブロッキングが「適当」と打ち出した。

 ブロッキングとは、インターネット利用者がアクセスしようとする特定のサイトについて、通信事業者の判断で接続できないよう、強制的に遮断する仕組みだ。インターネット利用者がアクセスを試みる際、通信事業者が遮断対象のサイトでないかを監視し、遮断対象であれば警告サイトに誘導する。

 政府は今回の対策と並行して、ブロッキングの法制化や、現行法で規制できないリーチサイト(まとめサイト)への対処ができるかどうか、法整備の検討も始める。

深刻化する海賊版サイトによる著作権侵害

 政府が緊急対策に乗り出した背景には、著作権侵害のレベルが深刻化している実態がある。公益社団法人の日本漫画家協会は今年2月、海賊版サイトについての見解を発表し、「全く創作の努力に加わっていない海賊版サイトなどが、利益をむさぼっている現実がある。このままの状態が続けば、日本のいろいろな文化が体力を削られてしまい、ついには滅びてしまう」と窮状を訴えた。

 一般社団法人・コンテンツ海外流通促進機構によると、三つの海賊版サイトによる被害額(推計)は2018年2月までの半年間で約4000億円。また、経済産業省の14年の報告書でも漫画に関する海賊版の被害は500億円に上るとの推計がある。全国出版協会によると、17年の紙と電子を合わせたマンガの市場規模は前年比2.8%減の4330億円。電子が1747億円と同17.2%の伸びを見せるなか、紙は2583億円で同12.8%と大きく落ち込んだ。読者が紙から電子へと移行する中、無料で閲覧できてしまう海賊版サイトの被害は、出版社にとって経営上の深刻な問題となっている。

児童ポルノでは既に実施

 ブロッキングを行う場合、通信事業者はすべてのインターネット利用者がどのサイトにアクセスしようとしているのか、把握することが前提となる。憲法21条の「通信の秘密」に抵触する可能性があるが、海賊版サイトは削除や検挙など従来の対策では著作権者の権利が保護ができない。このため政府は刑法の「緊急避難」を適用すれば、憲法違反には当たらないと判断した。緊急避難は危難が差し迫っている状況で、それを避けるためにやむを得ない場合、対策を行うことは違法行為には当たらないという考え方だ。

 日本では例外として11年4月から、児童ポルノに関してブロッキングが行われている。明確な法的根拠がないため、実施までには通信事業者や学識経験者などを交え、法律や技術面から長い議論が行われた。児童ポルノは深刻な性的虐待の産物であることに加え、一度ネット上に拡散してしまうと回収が困難であるという事情が背景にある。

 ただ、この議論を整理したネット事業者や有識者のワーキンググループは、児童ポルノを「特殊なケース」と規定。「他の違法有害情報一般に妥当するものではなく、安易に他の一般への応用が許されるものではない」として、なし崩し的なブロッキングの拡大防止を申し合わせていた。

 児童ポルノのブロッキングは通信関連業者などで作る一般社団法人・インターネットコンテンツセーフティ協会が担っている。寄せられた情報を元にネット上の画像や動画を小児科医や弁護士がチェックし、児童ポルノか否かを判断。16年9月時点で1300件超のアドレスがブロッキング対象となっている。同協会によると、児童ポルノのブロッキングに関しては苦情はほとんどなく、スムーズに運用されてきたという。

各国では立法措置でブロッキングを実施

 内閣府のまとめでは、イギリスやイタリア、フランス、韓国など42カ国で著作権侵害に対するサイトブロッキングを可能にする法制度が導入されたり、対応を義務づけたりしている。イタリアや韓国などでは数百のサイトについてブロッキングを行った実績もあるという。それでも多くの国では、著作権や知的財産に関する立法を行ったうえで規制を実施している。

 欧州連合(EU)は加盟28カ国に対し、著作権を保護するルールで「媒介者(プロバイダー)が提供するサービスが第三者によって著作権または関連する権利の侵害のために使用されている場合、権利保有者が媒介者に対し、差し止め命令を申し立てられるようにできるようにしなければならない」と義務づけている。これに基づき各国が法整備を行っており、イギリスでは著作権法に基づき、これまでに162の海賊版サイトが遮断された実績があるという。

業界は「通信の秘密が犠牲になる」と反発

 確かにマンガの著作権侵害は深刻だが、憲法が保護する「通信の秘密」と比較し、国民や通信事業者が納得できるレベルでの議論がなされたとは言い難いのが日本の現状だ。このため通信事業者サイドは強く反発している。

 国内の大手プロバイダーが加盟する日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)は12日、「著作権侵害への対策としてのブロッキングは法的に許されないだけでなく、適切な議論と手続きも行われておらず、断じて許されない」とする見解を発表した。児童ポルノのブロッキングでは2年にわたる検討が行われたことを指摘し、「緊急避難の本質は無関係の第三者を巻き添えにすることであり、ブロッキングでは侵害行為と関係のない国民の通信の秘密が犠牲になる」と政府の対応を批判した。

 同時に「基本的に著作権は、差し止め請求や損害賠償により被害の回復が可能」と指摘。「そもそも通信の秘密の侵害は違法行為。電気通信事業者にとって、通信の秘密を守ることは利用者との最大の約束事だ。法的にもブロッキングを行った業者が電気通信事業法違反に問われるおそれがある」として慎重な議論を求めている。

 また、インターネットコンテンツセーフティ協会やモバイルコンテンツ審査・運用監視機構、インターネットユーザー協会と主婦連合会、情報法制研究所といった通信関連団体も政府の緊急対策に反対する声明を出している。

 新潟大学の鈴木正朝教授(情報法)は「著作権の侵害は深刻だが、通信の秘密の侵害行為を深い議論もないまま、立法のプロセスも踏まず、政府が促すという緊急対策は明らかに手段が間違っている。まずは立法を先行させるべきだ。海外ではいずれも立法、司法手続きを経てブロッキングを認めており、行政が特定のサイトを指示しただけでブロッキングを実施している国はない」と批判した。

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