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炎のなかへ

/131 アンディ・タケシの東京大空襲 石田衣良 望月ミネタロウ・画

三月九日(35)

 錦糸町は東京下町でも有数の繁華街なので、千葉街道の近くまでやってくると街並みがだんだんとにぎやかになってきた。自動車の影がまばらな千葉街道には、都電がゆったりと走っている。時刻はまだ五時になっていなかった。

 春のこの時期でも空は十分なほど明るい。

 タケシと登美子は国民服とモンペ姿で、駅前の横断歩道を渡った。不思議なものだが、同じ国民服やモンペといっても、明らかに着る人のセンスで雰囲気が変わるのだった。タケシはどこか折り目正しく見えるし、和服を仕立て直したモンペも、登美子が身につけると清楚(せいそ)で可憐(かれん)な空気を放っている。そういえば、戦時下だけでなく普通の中学の制服でも、組のなかで着こなしのいい生徒といまひとつの生徒は、はっきりと分かれているものだ。

 夕刻になった駅前のバス操車場では背広や和服にきちんと帽子を頭に載せた大人たちが行列をつくっていた。…

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