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京都・読書之森

桜のいのち 庭のこころ /京都

 <活字を楽しむ>

     (佐野藤右衛門・著 ちくま文庫、700円(税抜き))

     4月初旬、春の陽気に誘われて、息子たちを連れて広沢池(京都市右京区)に車で向かっていると、池の手前で、天を覆うように咲き誇る見事な枝ぶりの桜に出会った。

     調べて見ると、「桜守(さくらもり)」と呼ばれる有名な植木職人、佐野藤右衛門(とうえもん)さん(90)のご自宅の桜。無料公開されている庭には、大きな花弁が印象的な「大提灯(ぢょうちん)」や淡い緑色が美しい「鬱金(うこん)」など多種多様な桜が彩り豊かに咲き乱れ、多くの花見客を楽しませていた。「花咲かじいさんでもこんなにも多くの種類の桜を見事に咲かせられないのでは」。佐野さんのことが知りたくて手に取ったのが本書だ。

     佐野さんは代々「藤右衛門」を襲名する「植藤造園」の16代目。14代目の祖父から3代続けて桜の魅力にとりつかれ、桜の調査や保護に関わってきた。著書では「何百年も生きてきた立派な木でも、いつかは枯れますな。すばらしい花を楽しみたいと思ったら跡継ぎをつくっておかななりませんわ」と語り、祖父の代から全国各地の「名桜」「巨桜」の種や接ぎ穂などをもらってきては自宅の「桜畑」で育てるなどしてきた。

     円山公園の「祇園の夜桜」として有名な枝垂(しだ)れ桜は、現在2代目。父親が佐野さんの誕生記念に、初代から取った種を自宅にまき育てていた桜だ。初代が枯死したために寄贈したもので、佐野さんは「わしとは兄弟のようなもの」という。

     桜といえば一般的に「ソメイヨシノ」を思い浮かべるが、佐野さんは「あれほどつまらん桜はない」と断じる。東京の旧染井村で品種改良された桜で、寿命は50~100年ほどと短い。接ぎ木がしやすく成長が早いため、量産されて日本中に植えられたが、「人間に作られたものだから個性がない。どこへ行っても景色が一緒で、おもしろみも深みも何もない」と手厳しい。戦勝記念や水害復旧など国家的事業として植えられたものが多いという指摘もうなづける。

     種から自然に育つ桜はヤマザクラ、ヒガンザクラ、オオシマザクラのみ。その3系統以外は品種改良で作られ、ソメイヨシノは代表格だ。自然界ではどの木が交配するか分からないため、同じヤマザクラでも「一種一本」というほど個性が違うという。

     佐野さんは、祇園の2代目枝垂れ桜の跡継ぎも育てているが、種を百個まいても親の桜と同じような咲き方になるのは1割程度で、数本のこともあるという。枝垂れなかったり、花の色が違ったり、花が少なかったり。「その木のおじいさんやそのまたおじいさんの遺伝子のどれかが出てきよる。桜はさまざまな遺伝子を持つ雑種なんです」と「名桜」の跡継ぎを残していく難しさを語る。桜の奥深さに触れられ、花見が一層楽しみになる一冊だ。【飼手勇介】

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