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詩歌の森へ

詩的無常観の魅力=酒井佐忠

 今年の詩歌文学館賞(俳句部門)は、岩淵喜代子さんの句集『穀象(こくぞう)』(ふらんす堂)に決まった。岩淵さんは、吉野で俳句に開眼した異色のホトトギス俳人、原石鼎(せきてい)の研究で知られる。これまでに『頂上の石鼎』『二冊の鹿火屋(かびや)』(俳人協会評論賞)を出し、丹念な現地探索の評論が見事だった。俳句実作面でも多くの句集を出している実力俳人だが、今回の句集はこれまでのものと一味違う、深く沈みこむような詩的な無常観が魅力だ。

     <穀象に或る日母船のやうな影>。句集名にとられた一句。「穀象」は、体長三ミリに満たない小さな虫。米の害虫として知られているが、小さな虫と「母船」のような大きな影との対比が面白い。影にこそ生の実態を見ているのかもしれない。「穀象」という名づけにこそ、俳味、俳諧があるとも岩淵さんはいう。<水母(くらげ)また骨を探してただよへり>。小動物の「水母」にはあり得ない「骨」の存在がおかしく悲しい。

     句集後半に「氷柱(つらら)」と題する章がある。<空青く氷柱に節のなかりけり>、<月光の氷柱に手足生えにけり>。「氷柱」の美しさに見惚(ほ)れる作者の観察眼と幻想的な想(おも)いが交錯する。そうした想いは、この章の巻頭に置かれた<見慣れたる枯野を今日も眺めけり>の一句とどこかで通底しているのだと思う。この世あの世さえ往還するような透徹した眼差(まなざ)しに共感する。(文芸ジャーナリスト)

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