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あした元気になあれ

下手も絵のうち=小国綾子

 長年人気だった「ほめて育てる」育児。ところが最近は、その弊害を指摘する記事やコラムが増えてきた。結局どっちがいいの?と迷う人も多いのではないか。

     「すてきね、いい音ね」。井上勢津さんが子どもたちをほめている声を聞くと、なぜかこちらまで心が落ち着くから不思議。井上さんは日本でただ一人のノルウェー政府認定の音楽療法士だ。

     東京・池袋で0~2歳の赤ちゃんや子ども、そのお母さんたちと一緒に「楽器で遊ぼう」という小さなサークルを開いている。どんなに幼い子でも小さなマラカスを鳴らせば、優しい音、元気の良い音……それぞれ違って面白い。

     鉄琴のバチを逆さに持ってたたく子も。焦った母親が正しく持たせようと手出しする前に、井上さんはすかさず子どもに話しかける。「面白い音が見つかったわね。すてき!」。その瞬間、母親の硬い表情がふっと緩み、笑顔に変わる。

     実はこの取り組み、子ども向けの音楽教室ではなく、子育て支援が目的だという。「日本社会は『きちんと子育てしなきゃ』というプレッシャーが強い。まずお母さんが『上手下手』や『できるできない』から自由になって、リラックスしてほしいんです」

     だから、井上さんは「上手ね」という言葉でほめない。子どもが自分で探し、音を見つけるということを大切にしたいという。

     昔、リストカットなど自傷行為を繰り返す若者を取材し、気付いたことがある。中には、親にほめられるほどに「もっと頑張らなきゃ」と自分を追い詰めてしまう子もいる。「上手にできないとパパやママに愛してもらえない」と思い込んでいるみたいに。

     先日、画家の熊谷守一さん(1880~1977年)をモデルにした映画「モリのいる場所」(5月19日より全国ロードショー)の試写を見た。興味深い場面があった。抽象画みたいな幼児の絵を熊谷さんに見せ、「うちの子は天才でしょうか?」と真剣に詰め寄る若い父親に、熊谷さん役の俳優、山崎努さんは「下手ですね」とばっさり。でもその後、こんなふうに言い添えるのだ。「下手でいい。上手は先が見えちまいますから。下手も絵のうちです」。その言葉に父親はぱっと顔を輝かせる。

     大切なのはきっと、ほめること自体より、受け止め、受け入れているよ、と伝えることなのだ。(統合デジタル取材センター)

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