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段ちゃんの「知っておきたい!中国のコト」

第17回 言葉の壁を乗り越えた先には=段文凝

友達を作りたかったけれど……難しかった“敬語”

 新年度が始まり、あなたも新しい環境で期待と不安の入り交じった時期を過ごしているかもしれません。その気持ち、私もとてもよくわかります。日本に来て間もなく、日本語が全然話せなかった私は、日本語学校に通い始めました。クラスにいるのは全員初めて会う人。もともと内気な性格なので、クラスメートともあいさつ程度しか言葉を交わせず、不安と緊張で押しつぶされそうでした。それでもどうにか基本的な日常会話ができるようになると、飲食店でアルバイトを始めました。ここでも、新たな不安を感じていました。日本に来る前に、日本に行ったことのある中国人の友達や先輩たちから、日本人は基本的に優しいし親切だけど“本音と建前”という見えないルールがあって、言葉通りに受け止めてはだめ、と言われていたからです。

     そうは言っても、環境が変わった時に思い切って自分からアクションを起こさなければ、結局何も始まりません。私は日本人の友達がとても欲しかったので、実際にお会いして、この人いいな、楽しいし面白いなと思った人には、自分からどんどん話しかけるようになりました。その結果、ありがたいことにたくさんの人と友達になることができました。なんだ、日本人も中国人もそんなに変わらなくてよかった、と胸をなでおろしました。でも……安心していたのもつかの間、ある日本人の友達から、こんなことを言われてしまいました。「段ちゃんはなんでいつまでも『です、ます』って丁寧語でしゃべるの?」。この友達は、私がずっと“です、ます調”で話をするので、自分と距離を取りたいのかな?と内心思っていたというのです。これは本当にショックでした。

     日本語には、丁寧語や、尊敬語、謙譲語といった複雑な敬語があります。私が日本語学校で勉強した日本語は“です、ます”を使う丁寧語が基本でした。でも、実際に私と同年代の日本人が使う日本語は、それとはまったく別の、いわゆる“タメ口”が多かったのです。そして日本人の間では、関係が近くなればなるほど、相手の呼び方や、会話の語尾などを変えて、親しさを表現していたのです。こんなこと、日本語学校で教えてもらえなかったなあ……と、当時私は少し悔しく思っていました。

    おかずは誰のもの? 私が感じる相手と私の境界線

     それでもやっぱり、日本で暮らしていると、何かと暗黙のルールを感じることはたびたびあります。最近、私のふるさとの天津から、友達が日本に遊びに来ました。東京の名所を案内したり、一緒に晩ご飯を食べたり。すっかり昔のままの雰囲気で2、3日一緒に行動していました。彼女とレストランに入った時のことです。お互いに頼んだのは別々の定食でしたが、全く何も考えずに、自分のおかずを相手のお皿に取り分けて、食べてごらんと勧めました。その時にふと、日本ではこれは人によってはマナー違反だと思われてしまうかも、と感じました。日本ではそれぞれの人が食べたいものを注文して、一人で食べきるのが普通です。たとえ友達同士でも、もし相手がちょっとでも難色を示したら、その境界線を越えてはいけません。でも、中国の大皿料理に慣れている私の感覚では、おかずはその場にいるみんなのもの、なのです。同じ料理をみんなで好きな分だけ食べる。足りなければまた注文する。そういった感じの方が、私の性に合っていて自然に出てしまうのです。

     相手と私の境界線をあまり意識しないのは、対人関係でも同じです。特に私は、と前置きしたほうがいいのかもしれませんが、誤解を恐れずに言えば、この人とは友達になりたいな、一緒にいて楽しいなと感じた人であれば、たとえそれが仕事上で知り合った人であっても、私はやっぱりその人を友達だと認識してしまいます。もちろん“公私混同”は良くありませんが、どうしても仕事は仕事と割り切って、プライベートでまったくお付き合いをしないことに、寂しさを感じます。もし、仕事で知り合って、とてもいい雰囲気で1日を過ごし、別れ際に「じゃあ今度は一緒にご飯でも」と言われたら、私は本当にお誘いが来るのを待つタイプです。1カ月過ぎ、2カ月過ぎ、「ああ、あれは社交辞令だったんだなあ……」と思ったことが、これまでにも何回もありました。仕事でも楽しかったのならプライベートでも友達になりたい。それが、私の本当の気持ちです。

    あえて境界線を踏み越えて……その先に生まれる“絆”

     相手の気持ちを尊重して、相手の境界線を越えない。これは、私から見た日本人のマナーです。この方法の良いところは、誰もが心地よく過ごせて、自分も傷つかないことです。ですが、私はちょっと寂しいのです。私の本当の気持ちは……たとえ相手が、あなたが入って来られるのはここまでですよと言っていたとしても、それはなぜですか?と問い返してみたいのです。何も聞かずに立ち去ることが、どうしてもできません。本当にその人が好きで、気になって、一緒にいたいなあと思ってしまったら、どんどんその人と関わりたくなってしまいます。その結果相手を怒らせて、嫌われてしまうこともあるでしょう。でも、そのあとしばらくしてその人が戻ってきてくれたとしたら。一度けんかをしたおかげで、相手の本当の好みがわかり、逆に仲良くなれるかもしれません。もし、初めからお互いがルールをよく守り、けんかを起こさずに心地よい関係を続けていたら、離れることはないかもしれないけれど、それ以上仲良くなることもないかもしれません。私は、けんかをするリスクをとっても、もっと仲良くなれるのか、ちょっと試してみたいのです。

     私の好きな日本語に“絆”という言葉があります。中国語では“羁绊(ジーバン)”や“纽带(ニュウダイ)”と訳されますが、どれもちょっとニュアンスが異なります。絆は、中国語にぴったり訳せない日本語の一つなのです。だから、私はこの言葉をこんなふうに覚えています。絆とは、時にお互いに傷つけたり傷ついたりしても、結果的により深くお互いを理解し合う関係のこと。私は絆は「傷(きず)を治(なお)す」ということだと考えています。あなたも、もしもっと分かり合いたいと思える友達がそばにいるとしたら、一歩相手に踏み込んで本当の気持ちを伝えてみては…・・・。きっとその気持ちに、応えてくれる親友もいると、私は信じています。

    お仕事で仲良くなった日本人の友達とマレーシアに旅行に行ったときの写真です!
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