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号外愛媛文書 首相が否定「指摘の日会ったことない」
縮む日本の先に

地方はいま/9 長野県岡谷市 だれの山? 防災阻む

 2006年7月19日未明、諏訪湖の西に位置する長野県岡谷市では雨が降り続いていた。湊花岡(みなとはなおか)区の区長だった小口〓明(ひろあき)さん(73)が外に出ると、金網を押し倒し、路上に土砂が流れ出ていた。家に戻ると、電話が鳴った。「区長、大変だ。神社が流された」。近隣を含めた西山地区では、小規模な河川沿いで次々土石流が起きた。累積降雨量は400ミリ。91カ所計2・39ヘクタールの山腹崩壊が発生し、8人が犠牲になった。

     「水と土砂だけではない。木々が大量に流れて被害が大きくなった」。親族を亡くした男性(57)はそう振り返る。成長し密度が高くなりすぎた木々は、地中深く根を張りにくく、地滑りのように流出しやすい。県は有識者と、土石流の原因や森林が持つ災害防止の役割を議論し、08年1月に間伐徹底や地質に合った樹木への植えかえなどを掲げた「災害に強い森林づくり指針」を策定した。小口さんらも、間伐や植林に励み、「西山里山の会」を結成。成果もあげたが、大きな課題に直面した。

     一般に山の整備は所有者の許可が必要だが、人口減や過疎化が進み、所有者がわかりにくくなっていた。何代もの相続手続きが放置された個人所有林はより深刻。親族が県外に転居しているケースも多く、少なくとも379人から同意を得たが、最後まで所有者が分からず、間伐を諦めた事例もあった。

     20キロほど離れた茅野市の北大塩区でも、所有者不明で間伐が進まなかった。「間伐承諾を求める文書は宛先不明で戻って来るし、名簿の名前を探して墓地をさまよったこともある」。元区長、吉田貞雄さん(61)は嘆く。県は森林整備のための県民税を08年、導入したが、所有者特定の難航もあり、10年間で税収約5億円が使い切れなかった。

     背景には、林業衰退による資産価値の低下や登記変更時の負担感に加え、登記自体を控える長年の慣習を問題視する見方もある。農林業の共同作業が盛んだった時代は、登記せずとも、持ち主不明になることは考えにくかった。

     「山への思い入れが強いのは70代以上。その子供の50代は山がどこにあるか分からず、孫の世代は、山を持っていることさえ知らないこともある」。問題の深刻さを東京財団政策研究所の吉原祥子研究員(47)は、そう例える。

     地域の担い手不足が背景にある点では、都市部の空き家の増加問題と同一構造と言える。東日本大震災では、津波被災地の所有者がたどれず、復興事業に遅れが出た事例がある。愛媛県で起きた受刑者脱走事件では、所有者が分からない空き家が捜索できないという問題が生じている。

     待ったなしの所有者不明土地問題。吉原さんは三つの対策を提案している。

     一つは手続きの手間を減らすなど相続登記の促進策だ。自治体職員や司法書士による相談体制の確立を訴える。

     二つ目は利用価値のある早い段階で、土地を寄付したり、NPOなどに預けられるようにするなど受け皿の確保。

     三つ目は所有者を確認する情報基盤の整備だ。不動産登記は義務ではなく、所有者が不明になることを防ぐため、登記簿、林地台帳、固定資産課税台帳など各書類の情報を共有できる仕組みづくりを求める。

     「過疎化で若い人が都会に出てしまう。親が植えた木を子が管理しない」「山を大切にしないことが災害につながる。新しい世代が学んでほしい」。土石流犠牲者の遺族からは悲痛な声も漏れる。小口さんは「水や空気など、山の恩恵はみんなが受けている。公共財産としての管理を進めるべきではないか」と話した。【鈴木健太】=つづく

    豪雨災害で土砂が崩落した場所の一つ。災害後、小口さんら地元住民が植林し、若い木々が育ち始めていた=長野県岡谷市の山中で2018年4月4日、鈴木健太撮影

    所有者不明の土地410万ヘクタール

     有識者でつくる「所有者不明土地問題研究会」の分析によると、2016年度時点で所有者が特定できない土地は全国で約410万ヘクタール。九州の面積を上回り、登記された土地の筆数の2割に当たる。林地が25・7%で最多。農地18・5%、宅地14・0%と続く。14年の東京財団の全国自治体へのアンケートによると、所有者不明土地の問題は、63%の自治体で起きていた。調査が追い付かず、死亡者名義での固定資産税の課税を続けている自治体が少なくとも16%あり、納税義務者の6・5%に達した。

     政府はこの夏にまとめる「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)に、問題解決への方向性を盛り込む方針だ。

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