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地方はいま/10止 徳島県神山町 空き家に企業で活気

しずくプロジェクトの製品を手に取る廣瀬圭治さん(左)と、プロジェクト主任の渡辺朋美さん=徳島県神山町で2018年4月12日、柴沼均撮影

 町を東西に貫く片側1車線の国道に沿うように、家々が点在する。四国遍路道の中で最も急な「遍路ころがし」と呼ばれる坂を、お遍路さんが静かに歩く。標高1000メートル級の山々に囲まれた徳島県神山(かみやま)町。高齢化と人口減に悩まされる中で、NPO法人が進める空き家を利用した企業移転が、町に活気を与えつつある。

     移転に携わるのはNPO法人「グリーンバレー」。大南信也理事長(64)は米スタンフォード大大学院を修了後、実家の建設業を継ぐため帰ってきた。JR徳島駅から車で約1時間の古里が過疎化する中、町に新しい人を集めることに奔走した。

     過疎地は「仕事がなく、移住者が定住しない」という同じ悩みを抱える。大南さんは既に仕事がある人を呼び、空き家という空間を提供する「ワーク・イン・レジデンス」を打ち出した。

     町に変化が起きたのが2010年。東京のIT企業「Sansan」が古民家を改修してサテライトオフィスを置いた。「周囲の話し声がうるさい東京と違い、仕事に集中できる」。そんな評判が広がり、現在はIT企業や情報番組配信会社など16社が、空き家に入居。起業者の共同スペースも建てられ、一昨年には省庁地方移転の一環で、消費者庁長官が試験的に町で執務した。町には光ファイバー網が整備され、通信に支障はない。

     企業の転入とともに、フランス料理店、オーダーメード靴店なども次々とオープンし、インターネットで発信される情報に興味を持った海外の観光客も、町を訪れるようになった。「住民はこんな山の中の町に発展はないと思い込んでいたが、外部のまっさらな視点が活気を取り戻してくれている」。大南さんは農林業に依存せず、多様な働きの場として価値が高まっている現状を「創造的過疎」と呼ぶ。

     企業も「過疎地ならでは」の活動を始めた。大阪市から移転し、ホームページ制作などを手掛ける「キネトスコープ」は、間伐材で作った製品を販売する「神山しずくプロジェクト」を進める。

     神山町は面積の86%を山林が占めるが、林業の後継者不足で間伐されないため土の保水力が弱っている。町の中央を流れる鮎喰(あくい)川の水量は30年前の約3割に減った。「水がなくなったら人も住めない。過疎対策だけでなく、水や山の保全も大事」。廣瀬圭治代表(45)は13年、間伐されない神山杉の利用方法としてタンブラーを考案し、地元の職人に製作を依頼した。赤と白の模様が強い特徴を生かしたデザインと保温力などが評価され、今年からパリでも販売される。

     中心部では子育て世代向けの町営住宅の建設が進む。地元の工務店主、荒井充洋さん(38)は「移住者には関心がなかったが、町に仕事も住居もできれば、自分たちの子どもの選択肢が広がることに気づいた」と作業に熱がこもる。

     大南さんは、町の将来を見据える。「高齢化率が高いので人口減はやむを得ない。それでも人口が下げ止まった後、意欲のある人たちでうまく回るようにしたい」【柴沼均】=おわり


    地方に本社移転 税優遇

     国は大都市から地方に本社機能などを移転した企業に税制優遇措置をとることで、企業の地方移転を進めている。2019年度末までに地方の雇用を4万人増やすことを目標にしており、内閣府によると、今年1月末までに9989人の雇用を創出した。

     また、ITを使って都会の企業の社員が地方で働けるテレワークを補助する国の「ふるさとテレワーク」事業では、16、17年度で全国の計33件に補助金を出した。今年度も対象を公募している。

     帝国データバンクが今年3月に発表した調査結果では、昨年の首都圏流入企業は7年連続で流出企業を上回ったが、流入と流出の差は10社にとどまった。同社は「税制優遇やテレワークの浸透は地方移転の動機付けになる。若い人材が魅力を感じることができれば、地方へ少しずつ流れていくのでは」と指摘する。

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