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平成の記憶

記者の記録 ネットで生活激変 絶えぬ技術進化

平成のIT・デジタル

 「生活の劇的な変化」という視点でとらえれば、平成は「IT(情報技術)・デジタル」の時代だった。インターネットがない暮らしや仕事は今や考えられないだろう。ただ、平成のIT史を振り返ると、技術立国・日本が世界に猛追され、その地位が低下していく30年でもあった。

     ITという言葉が世に知られ始めた1999年、経済部の担当記者になった。不良債権処理問題の解決は道半ばで、ネットの勃興は数少ない明るい話題。若かった自分は「これからはネットだ」と強く刺激を受けたのを覚えている。

     音楽配信ベンチャーが芸能人を招いて派手な上場記念パーティーを開いたり、別のIT企業社長が「上場先はロゴの格好よさで選んだ」「(上場で)調達した資金で投資信託を買う」といった珍回答を記者会見で披露したり……。プレーヤーたちの足が地についていない印象を持ったが、今思えば、それも高揚感の表れだったのかもしれない。

     その頃の勢いを象徴するのが、NTT移動通信網(現NTTドコモ)の情報サービス「iモード」だ。「携帯の標準装備になる」「社会のハブ(車輪の軸)になる」と記者に語る当時のドコモの社長らは自信に満ちあふれていた。ITベンチャーが集う東京・渋谷が「ビットバレー」と注目されるなど、後に大事件を起こした企業もあったが、元気ではあった。

     だが、2000年代後半のスマートフォン登場のころから少しずつ景色が変わったように思う。私たちがインフラのように使うスマホやネット上のサービスは、フェイスブック、ツイッター、グーグルなど海外勢が多くを占める。端末製造も国内大手の半分が撤退した。スマホ世界上位は韓国サムスン、米アップル、ファーウェイ(華為技術)など複数の中国勢で、日本製部品が不可欠なのに日本メーカーは見当たらない。パソコンも似たような状況だ。

     国内通信大手がスマホ対応に遅れ、メーカーも引きずられたといわれる。一方、以前取材で会った電子機器受託製造会社の社長は、構造的な問題を指摘していた。中国・深センに約10年間常駐するその社長は「日本の大手は長年の『バッジ』が重いのだろう、何かあってはいけないと、人、カネ、性能と何事も過剰になる。だから作れないし、作っても時間がかかって高い」と話す。利用者のニーズに素早く、かつ安く応える中国勢にかなわない、というのだ。

     東日本大震災後、記者職を一時離れて営業系の子会社に出向した。ある大手企業との会議では、名前を覚えきれないほど大勢の人がやってきて、社長の言う「過剰」を身をもって体験した。「日本の技術は世界一」「中国製はものまね」と思い込んでいた間に、中国や世界は先をいっていた。

     それでも、今、日本の若い企業が次々と新しいネット向けサービスにチャレンジする姿は頼もしい。そして、スマートスピーカー、IoT(モノのインターネット)の本格展開と、ネットの世界は「ポスト・スマホ」をにらむ。高速大容量の次世代移動通信システム「5G」(第5世代)の導入も日程に上る。「平成の次」の時代、再び景色は変わるだろうか。【編集委員・増田博樹】

    買い物や取引、手軽に 容易な情報入手

     毎日新聞のデータベースで「インターネット」が初めて登場するのは1992年11月、群馬県桐生市でのフォーラムの記事だ。言葉が浸透していなかった当時は「インターネット(ネット同士の交流)」という補足が必要だった。それからわずか約20年で日本のネット人口は1億人を突破。通信技術の進化が人々の生活に劇的な変化をもたらした30年だった。

    米マイクロソフト社の創業者ビル・ゲイツ氏=AP

     情報通信端末の主流は目まぐるしく変化した。89年に流行したフジテレビ系ドラマ「愛しあってるかい!」の中には、職場の固定電話で「合コン」を設定する場面がある。今ならばスマートフォンで済ませるやりとりだ。登場する携帯電話も俳優の顔と同じくらいの大きさだった。

     90年代前半は数字を送信できるポケットベルが流行。女子高生たちが休み時間にメッセージ送信が可能な公衆電話に並ぶ光景が各地で見られた。その時代も長くは続かない。90年代後半からPHS、携帯電話、スマホと主流は数年ごとに移り変わり、コミュニケーションの手段も通話だけでなくメール、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)と広がった。個人が投稿した文章や写真、動画を、瞬時に世界中へ発信できるようになり、チュニジアの民主化運動「ジャスミン革命」など政治的な変動の原動力にもなった。

     また、平成初期はパソコン通信が主流だったが、90年代半ばにビル・ゲイツ氏が率いるマイクロソフト社の「ウィンドウズ95」が大ヒットし、インターネットが台頭。天気予報や電車の乗り換え案内などさまざまな情報を、好きな時間にネット上で手軽に得ることができるようになった。日用品などの買い物や銀行振り込み、株取引などネットの登場で手続きが手軽になったケースは枚挙にいとまがない。

     すでに「ポスト・スマホ」の模索も始まった。人工知能(AI)技術を活用し、音声認識でさまざまなサービスを得られる「スマートスピーカー」や、電化製品や自動車などさまざまなものがインターネットでつながる「IoT」を生かした商品が発売されている。

    見えぬ相手、犯罪温床 憎悪や偏見助長

     生活の利便性を向上させたIT。一方で、警察庁の統計によると、昨年はサイバー犯罪に関する約13万件の相談が寄せられた。金融機関などを装ったメールから偽のサイトに誘導してパスワードなどを奪う「フィッシング詐欺」など、昭和にはなかった手口が次から次に人々を脅かしている。今月、フェイスブックが世界で最大約8700万人分の個人情報が流出した可能性を発表するなど、ネットが生活に浸透した「副作用」とも言える桁違いの規模のトラブルも国内外で起きた。

    秋葉原無差別殺傷事件で刺されて倒れた人を手当てする通行人ら=東京都千代田区外神田で2008年6月8日、塩入正夫撮影

     ネット上でのコミュニケーションで憎悪の感情を増幅させた加害者が人々を震撼(しんかん)させた事件もたびたび起こった。2000年5月、当時17歳の少年が佐賀市から福岡市へ向かう西鉄の高速バスを乗っ取った事件は、少年がネット上の掲示板「2ちゃんねる」(現5ちゃんねる)で犯行をほのめかしていた。08年6月、東京・秋葉原の歩行者天国で17人が死傷した無差別殺傷事件も、加藤智大死刑囚が携帯電話専用の掲示板に「秋葉原で人を殺します」と犯行予告を投稿。いずれも掲示板で非難されたことが背景にあったとされる。

     ネットを介したつながりが殺人事件のきっかけとなったケースもあった。07年8月、違法行為の勧誘を目的とする「闇サイト」で知り合った3人組が、面識のなかった女性を名古屋市の路上で拉致して現金を奪い、殺害する事件が発生。昨年10月、神奈川県座間市のアパートから切断された男女9人の遺体が見つかった事件も、容疑者はツイッター上で自殺をほのめかした投稿者を「手伝う」などと誘い出したとされる。

     黎明(れいめい)期、「世界中がつながることで国境や人種の壁はなくなり、誰でも情報を手軽に得られる」と言いはやされたインターネット。それは決して間違いではなかったが、近年は人種差別などのヘイトスピーチや、異なる意見に触れずに偏狭な思想にとらわれることによって起こる分断を助長しているのも事実だ。16年の米大統領選でトランプ氏当選に一役買ったとされるネット上のうその情報「フェイク(偽)ニュース」も、ネットの理想像を破壊しかねない。<グラフィック 樫川貴宏、編集・レイアウト 鈴木陽一郎>


     次回テーマは「社会保障」です(「平成の記憶」は随時掲載)

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