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田中均氏

 北朝鮮と韓国を分かつ軍事境界線上の板門店(パンムンジョム)で開かれた南北首脳会談。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と文在寅(ムンジェイン)大統領は「核のない朝鮮半島実現」を共通目標に掲げた共同宣言に署名し、南北融和姿勢を打ち出した。6月初めまでに予定される米朝首脳会談に向けトランプ政権の出方が注目される。

    半島平和に包括戦略を 田中均(たなか・ひとし) 日本総合研究所国際戦略研究所理事長

     韓国と北朝鮮が敵対したままの朝鮮半島は不安定だ。南北首脳会談の開催自体に大きな意義がある。今回の首脳会談により、今後の関係改善に向けての基本線が宣言され、敵対行動の全面的停止や非核化を確認したことは、大きな成果だ。また、朝鮮半島の平和体制の構築といった考え方が打ち出されたが、これが実際に半島の平和につながっていくためには、関係国と十分な協議を尽くす必要があろう。

     米朝首脳会談では非核化についての大きな合意につながることを期待する。北朝鮮は非核化の進展と共に見返りを要求していくという段階的なアプローチを主張していくのだろう。「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」を主張する米国との差異は大きい。非核化の目的を達成するまでの途中の段階で、北朝鮮への経済制裁や圧力を緩めては元も子もなくなる。

     米政府内には朝鮮半島問題に詳しい実務者がおらず、トランプ米大統領の政策の予見性が低いことが気がかりだ。トランプ大統領は「ロシアゲート」疑惑など難しい国内政治情勢の中にあり、米朝首脳会談が失敗すれば、米国が軍事的手立てを検討する蓋然(がいぜん)性も高まる。

     北朝鮮の核開発を巡っては「アメかムチか」の二分法でうまくいかなかった。非核化への新戦略として、中国も加わった有効な「圧力」(pressure)、米中日韓の「連携」(coordination)、万が一に備える「危機管理計画」(contingency planning)、北朝鮮との「連絡チャンネル」(communication channel)の英語の頭文字を取った「P3C」という包括的アプローチを提案したい。政府には、そのような包括的な戦略を持って取り組むことを求めたい。

     非核化のプロセスは米朝だけでは進められない。日本の利益は、拉致問題と核・ミサイル開発の包括的かつ平和的な解決だ。米朝首脳会談から、日本、中国、米国、韓国、ロシアに北朝鮮が核放棄を約束した2005年の6カ国協議の時点に回帰する流れが出てくれば、日本にとって好ましい結果だ。【聞き手・上野央絵】

    礒崎敦仁氏

    経済中心に路線転換 礒崎敦仁(いそざき・あつひと) 慶応大准教授(北朝鮮政治)

     1月の「新年の辞」で南北対話を呼びかけた金正恩朝鮮労働党委員長にとって南北首脳会談は当初、韓国の経済協力を引き出すことが目的だった。だが、トランプ米大統領が米朝首脳会談に応じたことで役割は大きく変わった。米朝会談の「前哨戦」の色彩が強くなり、朝鮮半島の平和をアピールする場となった。

     共同宣言で「完全な非核化」の実現という目標を確認し、南北会談は橋渡し役を果たした。米朝会談で非核化について踏み込んだ合意ができれば、韓国の文在寅大統領にとって北朝鮮との関係改善の環境が整い、今後、本題の経済協力を議論できるようになる。

     北朝鮮指導者が初めて板門店の南を訪れたのは韓国国民の心を取り込むのに有効だ。2000年の初の南北首脳会談で金大中(キムデジュン)大統領と冗談を交えて話した金正日(キムジョンイル)総書記のように、大胆、快活な印象を韓国側に与えただろう。

     北朝鮮は生存戦略を大きく変える準備をしているようだ。核兵器は「お荷物」になりつつある。従来の戦略を続けると、今後何十年にもわたる経済制裁と米国との対決を覚悟しなくてはならない。北朝鮮との対話に前向きで、条件を非核化にしぼるトランプ政権の存在はチャンスだ。核放棄に悲観的な見方もあるが、実利重視の正恩氏は体制維持と核放棄をてんびんにかけ、米朝会談で思い切った判断をする可能性があり、そのように誘導すべきだ。体制維持を米国や韓国が認めれば、北朝鮮は万々歳だ。

     北朝鮮は核実験場の廃棄や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試射中止を宣言し、核開発と経済建設を同時に進める並進路線を終わらせ、経済に集中する新路線を国内向けに打ち出した。よほどの覚悟がなければ踏み込めない路線転換だ。ポンペオ米中央情報局(CIA)長官(当時)との会談などを通じ、経済制裁が解除されるとの感触を得たものと思われる。

     しかし、北朝鮮が生存戦略を変えても、それで、普通の国になるわけではない。核兵器やミサイルに代わる手段、例えばサイバー攻撃がある。金正恩体制の存続が何を意味するのか。国際社会は議論を重ねる必要がある。【聞き手・林哲平】

    李鍾元氏

    韓国融和外交の成果 李鍾元(リージョンウォン) 早稲田大教授(東アジア政治)

     北朝鮮の指導者が初めて韓国を訪れた。しかも、首脳会談は、朝鮮戦争の休戦協定を結んだ板門店が舞台だった。韓国は、朝鮮半島の恒久的な平和体制作りにおいて当事者性を確保しようとしてきたが、今回、自らの外交努力で、朝鮮半島を戦争の危機から平和の時代へ転換させつつあると、内外に印象づけることに成功した。

     「完全な非核化」という踏み込んだ表現を金正恩朝鮮労働党委員長から引き出せたのは成果だ。今年のうちに朝鮮戦争の終戦を宣言するとし、平和協定締結を早急に進めることでも合意した。南北関係の画期的な改善のための具体的なメニューも並んだ。ただし、合意事項がどこまで実行に移されるかは、米朝首脳会談で核問題が解決に向かうかどうかにかかっている。

     核問題が表面化する前から、韓国には、北朝鮮の通常兵器が現実的な最大の脅威だった。朝鮮戦争が再開したら、長射程砲弾やロケット弾がソウルに向けて何千発も放たれる。今回、この緊張から解放される方向が示された。

     北朝鮮はこれまで軍事面の交渉相手を韓国ではなく、あくまでも米国だと考えてきた。ところが、核問題解決後の経済的な利益も見越してか、北朝鮮はこの間、米国へのメッセージを韓国のリベラル派政権に託すなど態度を改めた。韓国は北朝鮮の姿勢変化の恩恵を受けた面もある。

     韓国内政に及ぼす影響も大きい。2000年代にリベラル派の金大中大統領(当時)が唱えた「韓国が朝鮮半島の平和プロセスの中心に立つためには北朝鮮との対話政策が必要だ」との主張の正しさが証明された形になった。韓国世論は「リベラル派政権の外交が平和を築く主導的役割を担っている」と受け止め、保守派も正面からは批判できない。

     韓国は民主化から約30年たっても、北朝鮮との緊張関係を背景に、冷戦時代型の保革対立が残ってきた。南北関係の改善は、近年の朴槿恵(パククネ)前大統領弾劾の運動から財閥批判、各界でのセクハラ告発まで「多方面での第2の民主化」とも呼ぶべき流れと並行している。韓国は脱冷戦時代へと向かいつつあるとも言える。【聞き手・鈴木英生】

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