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段ちゃんの「知っておきたい!中国のコト」

第18回 急発展する中国……私が失いたくないもの=段文凝

便利になった中国の今 スマートフォンで何でもできる!?

 カルチャーショックという言葉がありますが、かつて私が日本に来たばかりのころは、東京で目にするさまざまなことが驚きでした。例えばタクシー。中国ではタクシーのドアは自分で開けるのが普通ですが、日本では運転手さんが代わりに開けてくれる自動ドアです。初めてあのドアを見たときは、いったいどんな仕組みになっているのかとびっくりしました。さすがに今ではそうした驚きは少なくなってきましたが、その代わり、私のふるさとである中国で“逆カルチャーショック”を受けることが多くなりました。

     同じタクシーの話でいえば、以前は中国でもタクシーを拾いたいときは、日本と同じようにいわゆる“流し”のタクシーに手を上げて止めていました。しかし、中国ではそんな光景は見られなくなりつつあります。代わりにスマートフォンのアプリを使って、さまざまな車種の車を呼ぶことができます。このアプリのすごいところは、運転手の顔写真と車種、ナンバープレートといった情報だけでなく、前の利用者の評価も見られるほか、スマートフォンに地図が表示され、どこを走っているかもリアルタイムでわかること。運転手さんのサービスも行き届いており、車内も清潔。荷物があれば持ってくれますし、無料のミネラルウオーターも座席にセットされています。目的地に着いたら、現金を取り出す必要もありません。なぜならすでにアプリでオンライン決済が済んでいるからです。

     別のアプリでは、路上に設置された“シェア自転車”を利用できます。この自転車には全地球測位システム(GPS)が搭載されており、スマートフォンに表示された地図上で、空いている身近な自転車を探せます。お目当ての自転車を見つけたら、後輪についているリングキーの二次元コード「QRコード」をスマートフォンで読み込みます。するとパスワード入力画面が表示されます。QRコードの読み取りと同時に送られてきたパスワードを入力すると、キーが解錠されて自転車に乗れるようになります。利用価格は1時間1元ほど。日本円で16円ほどです。目的地に着いたらそのまま乗り捨てます。次に利用する人が乗っていくか、長時間放置されたままだったら回収業者の人が取りに来て、またもとの位置に設置しなおしてくれます。もちろん代金の支払いもスマートフォンを使い、オンラインで決済します。

     このように、いま中国では驚異的なスピードでスマートフォンを使ったサービスが進化を遂げています。スマートフォン自体の普及率も増えています。中国インターネット情報センター(CNNIC)が今年(2018年)1月に発表した報告書(http://www.cac.gov.cn/2018-01/31/c_1122346138.htm)によりますと、2017年の12月までで中国のインターネット利用者は7.72億人に達し、普及率は55.8%と世界平均の51.7%を超えたといいます。このうち、スマートフォンなどモバイル端末を使ってインターネットをしている人は7.53億人と全体の97.5%を占めています。これは、2016年の同調査での95.1%を上回ったということです。

     この調査を見ると、今後もどんどんインターネットをする人が増え、それに伴ってスマートフォンの普及率も伸びていくでしょう。その結果、さらに便利なアプリなども開発され、利便性も高まると思います。けれど、少しあまのじゃくな私は、便利になることできっと失う“何か”もあるのでは?と考えてしまうのです。例えば、私が一番さみしく感じるのは、人と人とのつながりがますます希薄になってしまう、ということです。

    日本のちょっとアナログなサービスを受けて感じた私が失いたくないもの

     先日私が日本で、近所のデパートに靴を買いに行った時のことです。以前ウインドーショッピングをしていて、気になったあるブランドのお店に行ってみることにしました。私の頭の中には、ちょっとカジュアルでキラキラしたスニーカーのような靴、という具体的なイメージがあったのですが、そのお店にはあいにくそのイメージにぴったりの靴はありませんでした。私が少し残念そうな顔をしていると、店員さんが私に近づき、意外なことを言ってくれました。「せっかく来ていただいたのに、ご希望に沿うことができなくて申し訳ありません。ですが、お客様のお探しのデザインの靴は、もしかしたら別のブランドの店にあるかもしれません。そのお店の行き方は……」。丁寧に道案内までしてくれたのです。

     もしこれが、アプリを使ったネットショッピングだったとしたら。店員さんとのやり取りはおろか、私の表情を察してアドバイスしてくれることも不可能だったはずです。もちろん、お店としては目先の利益をあえて優先させずに、お客さんとして来店した私の満足感を優先させる“サービス”を行うことで、次に気持ちよく来店してもらいたい、という狙いがあったのでしょう。ですが、そうしたサービスは直接面と向かってやり取りをしているからこそ成り立つもの。そこには、人間同士でしか通じ合えない感情のやり取りがあると思います。

     ほかにも日本のデパートで、私が気に入っているサービスがあります。仕事柄、人に会うことが多いので、よくちょっとした手土産を買うことがあります。その時、ただお土産を渡すだけではつまらないので、ラッピングをしてもらうのですが、包装紙の柄や色、リボンの種類や留める位置などを店員さんと一緒に相談します。それが結構楽しくて好きなのです。ベテランの店員さんの包装の手際はとても鮮やかで無駄がなく、ついつい見とれてしまいます。

     いま技術の進歩のお陰で、情報化がどんどん進み、世の中が便利になりました。でも、本当に便利になることだけが、人を幸せにするでしょうか。私はそう思いません。だって、私のがっかりした顔から、言葉にしていない気持ちを察してくれた店員さんは、PCやサーバーを使わなくても、ちゃんと私を笑顔にしてくれました。それなら、私にできることとは…・・・?例えば、昔からのやり方ですが、手紙のように一文字一文字考えながら“書く”という方法で、私の思いを丁寧にあなたに伝え続けることは出来ます。もしかしたらスマートフォンを持ち、いろいろな気持ちを抱えたまま、この連載を読んでくれている“あなた”を、少しだけ笑顔にできるかもしれないですから。

    先日、北京に行ったとき、シェア自転車を利用してみました!ちょっとだけ移動したいときや、急いでいるときにとても便利です。

    段文凝

    (だん・ぶんぎょう)中国・天津市出身。2009年5月来日。同年まで天津テレビ局に所属。2011年4月より、NHK教育テレビ『テレビで中国語』にレギュラー出演。(2017年3月卒業)2014年早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース卒業。日中間を行き来し講演活動を行い、「かわいすぎる中国語講師」として幅広い層に人気を得ている。2015年、2016年に毎日新聞夕刊「ひ・と・も・よ・う」で取り上げられた。2017年現在、NHKWORLDのラジオにレギュラー出演。舞台や映画などを中心に女優としても活躍している。

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