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藤原帰一の映画愛

ラジオ・コバニ 暴力の記憶抱えながら、瓦礫の町で未来を作る

 リビア、イエメン、イラクをはじめとして現在の中東、北アフリカ地域では数多くの武力紛争が続いていますが、なかでも最大のものがシリア内戦であることには異論がないでしょう。

     チュニジアとエジプトに始まる2011年の政変、いわゆるアラブの春がシリアにもたらしたのは、武器を持たない一般市民に対するアサド政権の殺戮(さつりく)でした。非武装反政府運動は武装反乱に変わり、内戦と混乱のなか、いわゆる「イスラム国」(IS)が勢力を拡大し、これも極度に残虐な暴力を展開しました。

     アメリカなど西側諸国の軍事介入は、アサド政権ではなく斬首事件や国外テロを繰り返すISを主な攻撃対象としました。やがてISの勢力は大幅に縮小しますが、他方でロシアやイランの支援を受けたアサド政権が支配地域を拡大します。シリアにおける無法な暴力がISの縮小によって終わったとはとてもいえません。

     シリア内戦は既に幾つかのドキュメンタリーを生み出しました。このコラムでもご紹介した「シリア・モナムール」は、シリアからヨーロッパに逃れた映画作家が、シリア現地から送られてきたスマートフォンの映像を集めた作品。監督は、殺戮の現場から離れたところに自分がいることに罪悪感を抱いているんですね。つらい映画でした。

     最近日本で上映のはじまった「ラッカは静かに虐殺されている」も出色の作品です。ISの首都とされたラッカでIS支配の現状を伝えるために、「ラッカは静かに虐殺されている」というグループがつくられました。海外のジャーナリストがなかなか入ることのできない地域を現場のジャーナリストが報道し、どんなひどい目にあってるのかを世界に訴えようというわけですね。このグループの活動をドキュメンタリーに仕上げたんですが、監督が「カルテル・ランド」で知られるマシュー・ハイネマンだけあって、予備知識がなくてもシリアの現状がよくわかる作品です。

     今回ご紹介する「ラジオ・コバニ」も、シリア内戦を取り上げたドキュメンタリー。トルコ国境に近い町コバニはIS支配下に置かれましたが、クルド勢力を中心とする反撃によって町の多くはISから解放されます。そのコバニで、20歳のディロバンが友達と一緒にラジオ局を立ち上げた。手作りの放送局です。

     この2本の映画、シリアの現場を伝える人のお話という点では似ていても、まるで印象が違います。まず、「ラッカは静かに虐殺されている」がプロの仕上がりなのに対して、「ラジオ・コバニ」は、飾りも工夫もなく、そのまんま。それに、映される場面が違います。「ラッカは静かに虐殺されている」には瓦礫(がれき)となった町の風景が案外出てこないんですが、「ラジオ・コバニ」に映るのは瓦礫の山ばかり。舞台となった地域が違うだけでなく、IS支配下に置かれた町と、ISは撤退したけれども破壊されてしまった町の違い、つまり描かれる時点、戦争の局面が違うわけです。

     目を背けたくなる光景です。ブルドーザーで瓦礫を動かして遺体を捜すんですが、砂と土埃(つちぼこり)のなかに断片の見えたその遺体は、もとは人間だったことを想像するのが難しい状態。それがいくつもいくつも出てくるので、胸が潰れます。

     でも、希望もある。どこもかしこも壊れてしまった町において、ラジオを通して音楽を、歌を流してゆく。生々しい暴力の記憶を抱えた人々は、ラジオ・コバニを通して歌を取り戻してゆきます。

     ディロバンは、いつか生まれるであろう自分の子どもに向かって、戦争に勝者はいない、敗者だけなんだと語りかけます。戦闘と空爆で破壊された町の姿は無残ですが、そこには未来を作ろうとする人間もいる。感動しました。(東京大教授)

           ◇

     次回は「私はあなたのニグロではない」です。

    ■監督 ラベー・ドスキー

    ■出演 ディロバン・キコ

    ■69分、オランダ

    ■東京・アップリンクほかで12日から公開

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