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波のまにまに

ジョーが生きた街=戸田栄

 「あしたのジョー」の連載が「週刊少年マガジン」で始まってから、今年で50年だとか。今も何年かに1度は読み返す。私の中で色あせたことはなく、時の経過を知って、ただ驚くばかりだった。

     書店に50周年記念と銘打つテレビ放映分のDVD集が並んでいて気がついた。歳月にため息をつく前に、喜び勇んでレジに走った。テレビ版では、ジョーや丹下段平のあの声を聞ける。際立った個性の2人を演じるのは不可能に見えるが、奇跡的に成功させている。ずっと初期放映分の再放送を録画したかったが、できずにいた。

     連載は1968年1月1日号から73年5月13日号まで。開始時、私は5歳の幼児で縁がない。テレビ初放映は70~71年で、これも同様だ。連載の終盤は小学5年生でマガジンは買っていたが、のめり込んだのは中学生になってから。テレビ版は再放送を見たのだろう。

     マンガも読んだが、私は読書の方が好きだった。だが、あの本、この本と心の中で挙げてみて、あしたのジョーほどの作品はないのではとも思う。中学生のはじめに出合ったもので、今も開いて感動している本はない。

     中年以後は、物語の最初の頃に特に見入ってしまう。テレビ版では、口笛を吹くジョーが泪橋(なみだばし)を渡り、ドヤ街にたどり着くシーンから始まる。街は、おんぼろの木造家屋の密集地帯だ。その風景は同和対策事業特別措置法(69年)の施行前の写真で見る都市の被差別部落とよく似ている。作品は問題に言及せず、貧困地区を描いてそうなっただけかもしれないが。

     ひどく貧しい街なのだが、人々の間にはさりげないぬくもりがある。流れ者でとげとげしい性格のジョーは、この街に生きて変わっていく。ジョーがプロボクサーとなって以後、街の人たちが応援する姿も作中に描かれる。

     「立て! 立つんだ、ジョー」というフレーズは作品を象徴するが、そこには街の人の思いもこもっているように感じる。近年の貧困問題に多い「孤立」はない。現在は豊かさの中の孤独も問題だが、サチやキノコなど街のかわいい悪ガキはいつも徒党を組んでいる。

     関西向け夕刊中の本欄だから、最後にマンモス西にふれておきたい。なぜ、あのさえない男だけが関西弁なのか。名作の唯一の問題点といえるが、心の温かい男やから、まあええか。(編集委員)=次回は6月4日

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