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毎日フォーラム・視点

慶応大大学院システムデザイン・マネジメント研究科特任教授  林美香子

林美香子氏

農都共生 情報、人材、経済の循環が活力を生む

 日本では、急激な都市化や工業化、縦割り行政の影響などもあり、これまでは農村と都市の地域政策を個別に考えることが多かった。しかし、地域活性化のためには、農村と都市をトータルに捉える「農都共生=農村と都市の共生」が大切と考えている。

     農家の人たちが運営する農産直売所・農家民宿・農家レストラン・農業体験などで、都会の人たちが、グリーンツーリズム(農村地帯で過ごす休暇)を楽しみ、交流や連携を重ね、農村と都市の相互理解を深めていくことが、農都共生の推進につながり、農村と都市双方の地域活性化に力を発揮する。

     都市住民のライフスタイルが変化し、「物質的豊かさ」より「心の豊かさ」を重視する人や、レジャー・余暇に生活の力点を置く人が増えており、農業・農村への関心が高まっている今こそ、農都共生を推進する絶好のチャンスである。

     都市側には、楽しみや心の豊かさなどの恩恵があり、農村側には、いきがいや副収入をもたらすなど、双方への効果がある。農都共生活動による「情報の循環」「人材の循環」「経済の循環」が、農村・都市の双方に活力をもたらし、地域の持続可能性につながっていくと考えている。最近、全国で始まった農泊も、まさに農都共生を実践する活動だと思っている。

     私はもともと農業・農村に関心があり、北海道大学農学部に学んだ。卒業した後、札幌テレビ放送にアナウンサーとして入社。退社後も札幌市で、キャスターの仕事と同時に、「食と農」「地域づくり」などをテーマに執筆と講演活動を続けてきた。仕事の傍ら、2003年から北大大学院工学研究科社会人博士課程で研究し、「農村と都市の共生による地域再生の基盤条件の研究」という論文にまとめ、博士号を取得した。

    若い世代にこそ必要な農村体験

     その後、キャスターをしながら、農都共生による地域活性化をテーマに活動し、08年に開学した横浜市の慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科で、農林中央金庫寄付講座「農都共生ラボ(アグリゼミ)」を担当している。

     札幌在住のため、月に1、2度、出かけ、学生たちとゼミを開催するほか、農村に足を運ぶことがとても重要と考え、毎年、農村視察を実施している。畑の土の柔らかさに感激する学生がいるなど、いかに農村と都市の間に距離があるのかを感じる。都会の若い世代にこそ、農業体験や農村ボランティアが必要だろう。美しい農村景観の中で、穏やかな時間を過ごし、農作業に汗を流し、郷土料理を味わい、農村文化を楽しむ……。これこそが、農業・農村が持つ「癒し」や「教育力」などの多面的機能だ。都会育ちの学生たちが、それぞれの地域ならではの農業や農村文化に触れ、感激している姿を見るのは、教育担当者として、とてもうれしいものだ。

     また、主宰する農都共生研究会では、農村体験ツアー、都会での直売イベント、講演会、農家も都市住民も参加する地域活性化のワークショップなどを開催している。そうした活動を通して、農都共生の重要性を農村側にも都会側にも伝え、また多くの人に体験してもらえるような仕組み作りや、情報受発信も必要だと訴えている。

    望まれる「バカンス法」の制定

     フランスなどのツーリズム先進国に比べると、まだ緒に就いたばかりの日本。多くの国民がゆったりと長期休暇をとって、グリーンツーリズムを楽しみ、農都共生を推進できる社会にするためには、欧米のような「バカンス法」の制定も望まれる。そして、人生は仕事一辺倒ではなく、社会的活動や余暇時間も大切と考える社会全体の価値観の転換や、小さいころからの教育、実践するための時間的ゆとりも必要だと考えている。

     農都共生研究会が、東京、横浜、札幌で開催しているフォーラムでは、参加者から、「もっと農村に出かけたい」「農村の情報がもっと欲しい」という話をいただくことも多く、このほど、「農村で楽しもう」(安曇出版)を出版した。ひとりでも多くの方に、日本各地の美しい農村風景の中で、素晴らしい時間を過ごして欲しいと願っている。

     また、農家のみなさんには、農業・農村の多面的機能を活用し、農業経営の柱のひとつとして、農家レストランや直売所などの活動を進めて欲しい、という願いも込めている。この本では、農村景観づくり、地産地消、6次産業化、地域活性化などの好例を、豊富なオールカラー写真とともに紹介している。都会の人たちは農村に何を求めるのか、また農村はどんなところを訴求したらいいのかという視点で執筆した。

    農家と消費者との交流を深める

     例えば、沖縄の廃校を利用した宿泊付き体験農場で人気の「あいあいファーム」、愛媛県内子町の伝統的な地域文化を伝える農家民宿「コクリコ」を取り上げている。

     北海道内の事例では、乳製品の加工とレストランで年間30万人が訪れるニセコ町の高橋牧場、十勝の小麦などを使用することで、地元農家を応援し、十勝ならではのパン作りをめざす帯広市の満寿屋、農業への理解を深めてもらおうと、フットパスなどの活動で、消費者との交流に力を入れる根室市の伊藤牧場、雪を冷蔵に使用した雪中米で有名な沼田町などを紹介している。沼田町では、一昨年と昨年、アグリゼミの農村視察を実施した。都会育ちの学生たちが、農業体験を通じて、農家と語らい、農業への理解を深めている姿をレポートした。

     最近は、経営の視点から農業の大規模化を進め、農業生産を最優先に掲げる農家も多いが、農家レストランや直売所などの運営にももっと目を向けて欲しい。そうした活動が、消費者の農業理解を深め、国産農産物を積極的に買って応援してくれる人たちの増加につながるはずだ。それは、持続可能な日本農業への後押しになると同時に、日本各地の農山村の存続を可能にする方策のひとつだと信じている。

     はやし・みかこ 札幌市生まれ。 北海道大農学部卒後、札幌テレビ放送株式会社にアナウンサーとして入社。退社後、キャスターに。エフエム北海道「ミカコマガジン」出演の他、執筆活動も。「食」「農業」「環境」「地域づくり」などのフォーラムにパネリスト・コーディネーターとして参加。北大大学院で博士(工学)を取得。現在は、慶応大大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科特任教授。北大大学院農学研究院客員教授。北洋銀行社外取締役。地域活性学会評議員。NPO「モエレ沼公園の活用を考える会」理事。著書に「農村へ出かけよう」(寿郎社)「農業・農村で幸せになろうよ」(安曇出版)など多数。札幌市在住。

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