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公益財団法人日本生産性本部理事長・前田和敬さん

前田和敬さん

人口減少時代の新たな生産性運動展開

 日本経済は長い低迷から衰退へ--。日本生産性本部は労働生産性の国際比較からそのように警告し、世界史に例を見ない超高齢化と人口減少時代を迎えた今こそ新たな生産性運動の必要性を強調する。昨年理事長に就任した前田和敬氏は戦後体制が行き詰まった1980年代から政財界、労働組合、学識者のネットワークの中でさまざまな改革の裏方として尽力してきた。「持続可能な社会」に向けて取り組むべき課題と体制づくりについて聞いた。(聞き手 本誌・本谷夏樹)

     --戦後の高度経済成長を成し得た過程で生産性運動の果たした功績は大きかったですね。

     前田さん 日本生産性本部が発足したのは敗戦から10年後の1955年です。当時の日本経済は、GDP(国内総生産)がわずか8兆3000億円と、2017年(約544兆円)の約65分の1の規模しかありませんでした。欧米に生産技術や経営工学、マーケティングなどのベストプラティクスを学ぶために、経営者の海外視察団派遣を始めたのが最初の活動です。当時は「昭和の遣唐使」と言われたそうです。日本を競争相手だとは思っていなかった当時の米国は大変オープンで、さまざまな生産工程を見せてくれて、視察団は懸命に写真に撮ったりして吸収し、後の経済大国に発展する礎を築いていったのです。

     さらに、海外視察団で得た欧米の当時最新の経営手法を共有するために、58年から軽井沢でトップマネジメントセミナーを開きました。今経団連や同友会が開いている夏季のセミナーの草分けですね。また、同年に「経営コンサルタント養成講座」を開設し、企業の経営改善や現場の改善を担う人材の育成を図ってきました。さらに、設立10年目の65年に企業の中核人材を育成するための「経営アカデミー」を開校しました。

     --対立する労使を結び付ける役割も担っていた。

     前田さん 生産性運動を推進するにあたって3原則を設定しました。(1)雇用の維持拡大(2)労使の協力と協議(3)成果の公正な分配--です。この3原則は当時の時代背景として、生産性を向上していくためには経営者側と労働組合の協力が不可欠という強い気持ちがあったのです。生産性本部は、企業、労組、学識者の3者で構成されており、戦後の日本経済の自立と発展に中核組織として貢献してきました。

     --しかし今、労働生産性も低下しています。

     前田さん 労働生産性とは、労働者1人当たりで生み出す成果や労働者が時間当たりで生み出す成果を指標化し、付加価値をいかに効率よく生み出すかを示したものです。昨年12月に発表した国際比較で、2016年の時間当たり労働生産性はOECD加盟35カ国中で20位です。実は主要先進国では1970年以降最下位が続いているのです。米国に次ぐ経済大国を誇ってきた日本としては意外に思う人が多いかもしれませんが、労働生産性はずっと低いままです。製造業だけで見ると、94年から01年までは世界1位でしたが、その後、順位は大きく後退して最近の15年では前年に続いて14位に落ちています。

     --働く割には付加価値を生んでいないと。

     前田さん そういうことです。日本の労働者は世界的にも極めて優秀なのに、日本の労働生産性は時間当たり46ドルで、米国の3分の2の水準です。製造業は7割程度ですが、サービス産業は5割しかありません。ドイツや英国に比べても3分の2にとどまっています。

     --超高齢化と人口減少の時代に入っています。

     前田さん 今、日本は歴史的な転換点に立っています。世界に例のない人口減少時代が到来しています。報道されているように国立社会保障・人口問題研究所の推計では2065年には8808万人と3割減少し、生産年齢人口は7727万人から4527万人へと4割も減少すると推計しています。子どもを産む確率の高い25~39歳の女性人口も減り、合計特殊出生率はやや上昇したとはいえ1.4程度ですから人口が減り続けることは確実です。これは大きな問題です。なぜなら、社会保障をはじめ既存の制度や、経済学も「成長」を前提にしてきました。我々は今後、いかに「戦略的に縮む」かを真剣に考えていかなければならない時代になったのです。

     --「成長神話」を払拭しなくてはならない。

     前田さん 「人生100年時代」が到来して、50年後には日本人の半分が50歳以上なるともいわれています。そうなったら我々の生き方や暮らし方、働き方が大きく変わっていくでしょう。社会システムを作り変えなくてはなりません。すでに、製造業と非製造業の垣根がなくなり、モノとサービスが融合してきています。経済の成長は必要ですが、産業構造が激変している時代に、それまでの延長線上の「成長神話」にしがみついてきた日本が取り残されつつあるのです。成功した仕組みを変えるのは一番難しいことですが、大転換期にはそれをやらなくてはなりません。

     --生産性運動も新たな展開が求められますね。

     前田さん 日本生産性本部は先日、設立当時に匹敵する強い決意をもって、我が国の経済社会の立て直しを図ろうと「人口減少下の新たな生産性運動の基盤整備」として18~20年度の第1次中期運動目標を発表しました。まず、生産性の諸課題について知恵と情報、経験を共有するハブ・プラットフォームを立ち上げます。研究と政策提言を目的とする「生産性常任委員会」を設置します。本部発足65周年の20年3月に向けて「第1回生産性白書」を刊行します。さらに、社会経済システムの改革に向けて合意形成するための国民運動を展開します。そのために「社会ビジョン委員会」を設置します。また、付加価値の増大を目指し「成長と分配の好循環」を実現します。カギはGDPと雇用の7割を占めるサービス産業の生産性を高めることで、「サービス産業生産性協議会」を軸に運動を展開します。さらに、欧米やアジア諸国との交流、研究活動の国際的な連携体制を構築することにも取り組みます。

     --90年代から民間政治臨調や21世紀政治臨調の事務局を担い、12年に産官学による日本アカデメイアを立ち上げましたね。

     前田さん この大転換期に人的、知的ネットワークを立て直し、日本と世界が直面している課題に取り組むことが目的です。生産性運動の核心は「持続可能な社会」を形成することです。今、主権国家、民主主義、グローバル化の三つが相克するトリレンマの時代といわれます。日本はかつて分厚かった中間層がしぼみ、社会の紐帯(ちゅうたい)が失われてきています。すべての課題解決に不可欠なのは「人材」です。若い世代から各界のリーダーや中核人材を育成することが必要です。学生たちが政策提言するジュニア・アカデメイアはそのような人材育成の一環として行っています。持続可能な社会を維持できるかは次世代の担う若い人材にかかっています。

     まえだ・かずたか 1959年生まれ。北海道出身。82年日本生産性本部入職(同日付で社会経済国民会議に出向)。12年日本アカデメイア事務局長。13年日本生産性本部執行役員、15年理事、16年常務理事を経て17年6月から現職。

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