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毎日フォーラム・特集

宇宙ビジネス ベンチャー企業育成へ政府が支援を本格化

日本や米国、ロシア、欧州、カナダなど15カ国が協力し運用する国際宇宙ステーション(ISS)。日本の実験棟「きぼう」も設置されている=JAXA/NASA提供

 宇宙を利用したビジネスへの関心が高まっている。欧米などの動きも活発化しており、海外に遅れまいと、政府は宇宙ビジネスに取り組むベンチャー企業の育成に積極的な支援を展開する。「最後のフロンティア」と呼ばれる宇宙市場を巡る官民の動向を追った。

     「国家プロジェクトから民間ビジネスのフロンティアへ。この世界的なパラダイムシフトを我が国が先頭に立って、力強くけん引する」--。3月に都内で開かれた宇宙シンポジウムでの安倍晋三首相の言葉に勇気づけられたベンチャー企業は多かったはずだ。首相は続けて宇宙ベンチャーに対し、今年度から5年間、日本政策投資銀行などを通じた1000億円の支援も表明した。政府の支援パッケージはさらに(1)投資家とのマッチング・サイトの創設(2)宇宙航空研究開発機構(JAXA)などとの人材交流の促進(3)国の研究機関が有する宇宙関連技術のビジネス利用の促進(4)政府衛星データの利用を拡大する「オープン&フリー化」の推進--など9項目に上る。

    30年代に市場規模2.5兆円に

     我が国は2008年に宇宙基本法を制定し、15年に(1)宇宙安全保障の確保(2)民生分野の宇宙利用推進(3)産業・科学技術基盤の強化--を柱とする宇宙基本計画を策定した。計画の工程表は毎年改訂され、急ぐべき課題を洗い出してきた。だが、現状ではロケット製造や衛星開発などの宇宙機器産業は官需主導で国際競争力に乏しく、宇宙分野へ参入する民間事業者が少ないなどの課題は克服されていない。このため、政府の宇宙政策委員会が昨年示した「宇宙産業ビジョン2030」は現在の宇宙機器産業約3500億円、衛星データを使う宇宙利用産業約8000億円の市場規模を30年代に倍増の2.5兆円とする目標を掲げた。

     安倍首相が宇宙ベンチャー支援を表明したのにはそうした経緯がある。内閣府宇宙開発戦略推進事務局の長宗豊和参事官補佐は「安倍首相のスピーチは宇宙ビジネスが誰もが挑戦できる分野だとも訴えている。宇宙ビジネスの勢力図は固定化されていないし、衛星データ利用はこれから本格化するので勝者はいない。グーグルやアマゾンも乗り出しているが、それらに勝てる企業をつくることもできる」と話す。実際、稲の刈り取り時期の判断や作物成分の画像化など農業にも衛星データ利用が広がっており、アイデア次第で思わぬ利用が生まれ、宇宙産業のすそ野を広げる可能性がある。

     ベンチャー育成ではJAXAの役割も一層大きくなっている。新事業促進部の杉田尚子・事業開発グループ長は「これまでは我々の研究成果や知的財産を使ってビジネスをしませんかというものだった。最近はベンチャーと対等の関係の共同研究などが増えている。宇宙産業を活性化させるにはベンチャーの存在は大きく、我々も積極的に連携を進めていきたい」と語る。これまでも企業と連携してJAXAの技術を使った商品開発はあった。しかし、その程度では市場規模の拡大にはつながらず、本格的なパートナーシップを結んでビジネスを支援し始めている。

    無重力利用し「きぼう」で創薬

     その一つがバイオベンチャーの「ペプチドリーム」で、JAXAの協力で国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」でタンパク質の結晶化に取り組んでいる。目的は創薬だ。

     創薬は病気の原因になるタンパク質の構造を解析し、その働き方を変える化合物を見つけることから始まる。同社は薬の候補化合物として、複数のアミノ酸が結合した「特殊環状ペプチド」を開発している。ではなぜ、宇宙でタンパク質の結晶化に取り組むのか。地球では高品質のタンパク質の結晶が作れないからだ。

     同社の舛屋圭一取締役は「砂糖水の砂糖は時間が経つと、沈殿します。地上では重い物は沈んで濃淡ができる。無重力の宇宙ではタンパク質を解析する溶液に濃淡ができないため、品質の高い結晶が作り出せるのです」という。高品質な結晶であれば、より詳細な構造データが得られ、ペプチドを最適化しやすくなり、創薬のスピードが飛躍的に高まる。

     舛屋氏は「製薬会社は薬の開発にお金と時間をかけており、失敗を恐れる。スピードが上がれば、労力もコストも削減できる」と話す。同社は06年の設立直後のアストラゼネカ(英国)を皮切りに、その後、国内製薬会社のほか、ノバルティス(スイス)、メルク(米国)など海外大手と次々に提携。業績は着実に拡大し、15年には東証一部上場も果たした。舛屋氏は「我々は薬を見つけて仕上げる会社なので、どの製薬会社も提携してアンハッピーになることはない」と胸を張る。

     「きぼう」での最初の実験は昨年2~3月に実施。大西卓哉宇宙飛行士がタンパク質の結晶化に取り組んだ。JAXAとは、さらに3年間の戦略的パートナーシップ契約を結び、期限の20年8月まで免疫疾患やがん、リューマチ、ぜんそくなどに関わるタンパク質の解析を進めるという。

    水探査など月への関心再び

     昨年12月、米国のトランプ大統領が航空宇宙局(NASA)に対し、有人月面探査を指示した。米国を中心に月軌道に宇宙ステーションを建設する計画もある。日本は昨年11月の日米首脳会談で宇宙探査分野で合意し、米国の計画に関与する考えを示している。

    コストが課題の日本の基幹ロケット「H-2A」。37号機の打ち上げの瞬間=2017年12月23日、三菱重工業提供

     アポロ計画以来か、再び月への関心が高まる中、月資源探査を目指すベンチャーがある。月にはアルミニウムやチタン、鉄、さらにヘリウム3などの資源があると言われるが、中でも注目を集めるのが水だ。月の両極には氷の状態の水があると見られ、株式会社アイスペースはローバー(月面探査機)を投入し、極域の水探査を計画する。同社もJAXAと覚書を交わし、協力関係にある。来年から20年のミッション1では小型着陸船を月の周回軌道に乗せ、20~21年のミッション2では月面への着陸技術を確立し、ミッション3から水探査を本格化させ、同時に月への輸送サービスも始める。今後、地球と異なる6分の1の重力など月環境を利用した実験ニーズや鉱物資源の探査が始まれば、施設建設のための物資輸送が不可欠になると見るからだ。

     そして、実際に水が見つかれば、水資源を利用したビジネスが生まれるという。同社広報担当の秋元衆平氏は「油田を考えれば分かりやすいと思います。どこに油田があるかのデータは高く売れますし、油田が見つかれば、採掘、貯蔵、精製などの事業が生まれる。水があることで月に新しい産業が興る可能性がある」と説明する。また、水があれば、ロケット燃料の液体水素と液体酸素が作れ、月を拠点に火星や小惑星への探査も実現できるという。

     同社は昨年12月、101億5000万円の資金調達を発表したが、出資元は産業革新機構、日本政策投資銀行、東京放送ホールディングス、コニカミノルタ、清水建設、スズキ、電通、ベンチャーキャピタルのリアルテックファンド、KDDI、日本航空、凸版印刷、資産運用会社スパークス・グループの12社が名を連ね、同社への関心の高さを示した。今年2月には東北大学ベンチャーパートナーズからも2億円の資金を得ており、調達総額は103億5000万円に上る。

     資金調達を拡大するのは着陸船の打ち上げ費用が高額なためだ。「日本のH-2型に載せると100億円程度かかる」(秋元氏)ため、現在の調達額は1回の打ち上げで消えてなくなる。だが、欧州宇宙機関(ESA)のアリアンや米国、インドなどのロケットならば50億~70億円という。同社は「別な衛星の打ち上げに相乗りすれば、その額をさらに半額以下にできる」とし、より低価格での打ち上げを目指している。

    受注増目指すロケット打ち上げ

     「H-2型は打ち上げ費用が高い」との指摘に、製造から打ち上げを担う三菱重工業のロケット打上執行責任者、二村幸基氏もうなずく。「国から技術移転を受けて製造しているロケットのため、設計など根本的な変更ができず、コスト削減が難しくなっている」と言うのだ。

     同社がJAXAから打ち上げ事業を引き継いだのは07年。以降、H-2A、H-2Bを合わせて29回打ち上げている。人工衛星を静止軌道へ運ぶ「打ち上げ輸送サービス」はまさに同社の総合技術力を発揮できる事業だが、年間4回程度という打ち上げではビジネスとしては十分ではない。民間事業者に限れば、世界での打ち上げは年間20回ほど。これをアリアンと米国の実業家、イーロン・マスク氏が設立したスペースX社のファルコン9で分け合っているのが実情だ。これまでカナダやアラブ首長国連邦のドバイなど海外受注実績もあるが、二村氏は「我が社はJAXAが大半の官需中心で民間事業者からの受注シェアは何%にもならない段階」と競争力の乏しさを認める。

     だが、技術力は世界トップクラスだ。打ち上げ成功率は95%を超え、天候不良などを除き計画日を変えない「オンタイム打ち上げ率」も100%近い。二村氏も「早く軌道上に衛星を上げ、ビジネスをしたいというのが民間事業者の要望で、その点では技術面の優位性はある」と話す。優位性をアピールするにも受注増は不可欠と言え、認知度を高めるため、影響力のある専門家が集まる各国での学会など航空宇宙イベントに参加し、プレゼンテーションにも力を入れている。

     しかし、最終的にはコストが課題になる。同社が今、期待を寄せるのが20年打ち上げ予定のH-2Aの後継機「H3」だ。JAXAが進める開発に参加し、材料・製法の見直しや特殊部品を排除し汎用品を使うなど徹底的なコスト削減に努めている。打ち上げ費用を従来の半額の50億円程度に抑えるのが目標で、実現すれば、価格競争力が高まる。

     一方で、多数の衛星を打ち上げて、個々の情報を一体運用する「衛星コンステレーション」によるベンチャービジネスの広がりにも注目する。同社にとっては重さ2トンの衛星を上げるのも、200キロの衛星を10個上げるのも同じであり、今後はこうした小型衛星も市場として捉えていく考えだ。二村氏は「ベンチャーには関心を持っており、共に世界で戦える宇宙ビジネスを考えていかなくてはならない」と話す。

     ただ、同社の打ち上げ輸送サービスには別な課題もある。発射場が種子島宇宙センターにあるため、ロケットや搭載する衛星を海上輸送しなくてはならない。海外では発射場近くに大型航空機の発着可能な空港があり、迅速な空輸が一般的だ。受注から打ち上げまでの時間短縮も重要な要素で、H3への発注を増やすにはインフラ面での競争力強化も求められそうだ。

    3月の宇宙シンポジウムの際、デブリ除去について、安倍晋三首相(右)に説明するアストロスケールの岡田光信・創業者兼CEO(中央)=同社提供

    増え続けるデブリ除去目指し起業

     衛星コンステレーションの時代になると、地球周回軌道に散らばるスペースデブリ(宇宙ごみ)がこれまで以上に問題となってくる。秒速7~8キロで周回するデブリが通信衛星などに衝突すれば、我々の生活にも影響が及ぶ。ところが、国や関係機関にデブリ除去に本腰を入れる動きはない。そこに目を付けたのが株式会社アストロスケールだ。同社の山本絵里子氏は「デブリについては長らく問題視されてきたが、ビジネスとしてデブリ除去に取り組む民間企業はなかった」と話す。

     デブリは1957年に旧ソ連がスプートニク1号を打ち上げるまで存在しなかった。だが、それ以降、故障や耐用年数を過ぎて停止した人工衛星、打ち上げられたロケットなどがデブリとして増え続けてきた。衛星からはがれた塗料や宇宙飛行士が落とした工具などもあるという。近年では07年の中国の衛星破壊実験や09年の米国衛星とロシア衛星の衝突で激増し、現在、10センチ以上のデブリは2万個を超え、それ以下を含めると億単位に上るという。

     では、誰に頼まれたのでもないデブリ除去をどうビジネス化するのだろうか。山本氏は「多数の衛星を打ち上げてビジネスをする企業が増えれば、壊れた衛星を放置できなくなると思うのです」と述べ、故障した衛星を回収するサービスを販売するという。具体的には企業の衛星にプレートを付けてもらい、故障した場合、同社の衛星の磁石がプレートを引き寄せ、故障衛星を捕獲し、大気圏に突入して、そのまま燃え尽きる仕組みで「エンド・オブ・ライフ・サービス」と名付ける。デブリ問題がさらに深刻化すれば、将来的には国や関係機関から除去の依頼が出てくるとも見る。

     同社は昨年、JAXAと共同研究契約を締結し、現在、19年前半に打ち上げる技術実証衛星「ELSA-d」の開発に取り組んでいる。実証実験では一緒に打ち上げる模擬デブリへの接近や捕獲の技術を検証するほか、模擬デブリの画像データを収集し捕獲物の状態なども確認する。世界に類例のないビジネスだが、同社も産業革新機構などから累計約60億円を調達し、20年からのサービス開始を目指している。

     宇宙ベンチャーの新たな挑戦が広がる一方で、我が国の宇宙関係予算はさほど増えていない。ここ数年は3300億円前後で推移している。このうち半分強を文部科学省が占め、大半はJAXAの予算となるが、その額は1600億円に満たず、NASAの10分の1、ESAの4分1という。宇宙ベンチャーの振興を担う経済産業省に至っては数十億円と圧倒的に少ない。

     予算が少ないなら、宇宙庁を創設し、まとめて使えるようにした方が効果的だとの指摘もあるが、文科省の谷広太・宇宙開発利用課長は「宇宙は夢や希望、チャレンジで語られる世界だが、宇宙ビジネスのリスクは高く、予算をある程度増やし、政府投資をしっかりして、国がやるべきことをやらなければならない」と話す。一方、巨額の宇宙関係予算を持つ米国は宇宙分野への政府の直接投資を抑え、産業界依存へシフトし始めており、それが新たなベンチャーを誕生させている面もある。

     日本の宇宙ビジネスの発展の成否は、成功するベンチャーの登場にかかっている。

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