メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

号外愛媛文書 首相が否定「指摘の日会ったことない」
Interview

町田康さん 笑いニルバーナの境地へ 連作集『湖畔の愛』刊行

インタビューに応じる作家の町田康さん=大原一城撮影

 作家の町田康さんが『湖畔の愛』(新潮社)を刊行した。湖のそばに建つ老舗ホテルのロビーを主な舞台にした連作集。支配人やスタッフ、宿泊客が繰り広げるドタバタを冗舌な文体で表現し、次々と笑いを誘う。「喜劇を小説として展開したかった。笑いの先に見えるニルバーナ(涅槃(ねはん))に、たゆたっていただければ」と確信ありげだ。

        ■   ■

     2013~17年に文芸誌『新潮』に書いた「湖畔」「雨女」「湖畔の愛」の3編を1冊にまとめた。日本のどこかにある創業100年の「九界湖ホテル」。支配人の新町、フロントの「あっちゃん」こと圧岡、雑用係の「スカ爺」ら、主要な登場人物も共通だ。

     「湖畔」では、ホテルに訪れた男性が意味のわからない言葉を話す。「わしゃいろげぇ、てたむこでぇ、うあいざいやだらぁ」とこんな調子。その理由とホテルの経営状況が絡み、予想もしない展開に……。「雨女」は、自身を雨女と信じる女性とその恋人が登場。客やスタッフが右往左往する。表題作「湖畔の愛」では、宿泊に来た「立脚大学演劇研究会」の若者たちの青春と、恋愛の駆け引きを描いた。終盤には笑いそのものが重要なテーマにもなる。

     「いやさ、洒落(しゃれ)たホテルじゃないか」「ほんたうに。こんな洒落たテルホが夕食付で一泊九千八百円なんて信じられないわ」「魔力かもね」「いや、磁力でせう」

     作中はこんな会話の連続だ。会話を書くと「実際の立ち話のように転がる。広がり、人物が深くなる」。さらに「(登場人物は)ほぼ本音で会話しています。だから現実社会が建前で息苦しいとすれば、この小説は笑いによる緩和ケア」という。

     九界湖には伝説の神「龍神」がすむ。全体をなぜか神々しいトーンが貫き、笑いとのギャップが余計におかしい。舞台に湖を選んだ理由を尋ねると「存在が幻想的で神秘性を帯びてますよね。『海行こか』『川行こか』とはなるけど、『湖行こか』とはならない。湖畔って、絵画でも親しまれているし、その響きは俗でありつつ、存在や実態はよくわからない」と分析した。

        ■   ■

     恋愛模様もポップで新鮮だ。芥川賞を受賞した「きれぎれ」など、従来もただれた男女関係は描いてきたが、恋愛はどちらかというと「避けてきた」意識があったそう。今作は、若者の片思いや心変わりを克明に描写する一方、行間からほんのりと大人の恋がにじむ場面も。「恋愛って、本人にとっては殺人と変わらないくらいものすごい問題だったりすると思って。だから逃げずに書いてみたら、面白かった」。その感覚が「喜劇」の中にも切なさや苦さを漂わせる。

     加えて、主な舞台をホテルのロビーに限定したのも大きな挑戦だった。「具体的な空間を書きたかった。横からや上から眺めるのではなく、開けた一方向から見るイメージで」。映像や劇で「シチュエーションコメディー」と呼ばれる手法に近い。町田さんは大阪出身で、吉本新喜劇もモチーフの一つと明かす。

        ■   ■

     この舞台に、さまざまな背景や思いを持つ人が集う。それにより「因果の交錯で現実に近付く」と町田さんは独特の口調で、やや難解な小説論を語った。「たとえ奇行であっても、それぞれの人が行動に向かう考え、因果関係や道筋を示している。そうすると、恋愛も含め、無数の因果がそこで交錯して(読み手の)無意識に響いてくる」という。

     その果てにあるのが、作中のキーワード「笑いニルバーナ」の境地でしょうか? 「そうですね。たまに笑いすぎて泣いてしまう時とかあるでしょう。あの状態が、30分間とか続いたら頭がおかしくなるでしょうね。悟りってそんなもんなんかなっていう。まあ、戻ってこられないでしょうね」【大原一城】

    関連記事

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 損賠訴訟 男児頭部にレジ袋 葬儀会社相手取り遺族が提訴
    2. 大阪重機事故 てんかんで事故歴 勤務先管理者の立件検討
    3. 皇室 両陛下の肖像画が完成 即位後は初、等身大
    4. 名古屋市 「名古屋に将棋会館新設を」 河村市長が意欲
    5. 高橋・狛江市長 セクハラ疑惑 市確認、本人は否定

    編集部のオススメ記事

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです

    [PR]