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論点

学校制服を考える

東京・銀座の中央区立泰明小学校の入学式に向かう新入生=2018年4月6日午前9時2分(代表撮影)

 東京・銀座の中央区立泰明小学校(和田利次校長)が今春、イタリアの高級ブランド「アルマーニ」監修の高価な「標準服」を採用し、「公立小の制服としてふさわしくない」などの議論を呼んだ。学校教育の現場や児童・生徒の日常生活において、制服にはどんな役割があるのか。そもそも必要なのか。改めて制服の意味を考える。

    衣服は意思疎通の手段 鴫原弘子・一般社団法人国際ファッションエデュケーション協会代表理事

    鴫原弘子氏

     「衣食住」は私たちの生活に欠かせないものだが、衣服について学校できちんと学ぶ機会がない。衣服の基本について子どものうちから正しく学び、知識を持つことが必要だと感じて、2年前に協会を設立した。泰明小学校の校長の発言を聞き、ファッションに対する概念や「服育」が誤解されて伝わってしまったと感じている。

     衣服には「暑さ寒さから身を守る」「自分の立場を示す」という二つの役割がある。また、ファッションの観点で言うと、(1)立場を示すソーシャルウエア(2)自己表現をするプライベートウエア(3)冠婚葬祭用のフォーマルウエア--と大きく分けて三つがある。ソーシャルウエアの代表が制服だ。警察官や客室乗務員などは制服を着ることで立場を示している。学校の制服も同様に、その学校の生徒として学びに行くことを示す。

     学校の制服は女子の場合ネクタイもあればリボンもあり、襟の形も学校によって違う。ここまで細かくデザインが分かれているのは、学校のアイデンティティーを制服に重ねているからではないか。泰明小が制服をどのように捉え、どんな思いを込めているのかが明確に示されなかったのは残念だ。銀座は海外から訪れる観光客も多く、国際的に自由に交流するという意味を込めて海外ブランドを採用したというならまだわかる。しかし、高級ブランドが銀座らしさを表すというのは理解できない。

     まずは学校の先生に服育を知ってもらおうと、中学、高校の先生向けの講演会を行っている。その中で「制服をきちんと着ない生徒をどう指導したらいいか」と毎回のように質問される。スカート丈を短くしたり、腰でズボンをはいたりして着崩している生徒に注意して、逆に生徒から「なぜ制服を着なければいけないのか」と聞かれると、「決まりだから」としか答えられない。細かい校則があるのも、指定することでしか生徒を説得できないから。先生自身も衣服の役割を教わっていないから、「制服は立場を示し、その学校の生徒として着ているものだ」と説明できないのだと思う。

     例えば飲食店の従業員の制服が汚れていたら、厨房(ちゅうぼう)も不衛生なのではないかと思ってしまう。人は着ているものから多くの情報を想像し、読み取って認識する。だからこそ衣服が持つ役割を正しく理解し、その場にふさわしい服を着ることが必要ではないだろうか。

     制服であろうと私服であろうと、大切なのは「何のために自分は今日この服を着るのか」をきちんと認識することだ。服を着ることは一生涯ついて回る。着方も「人」を表す。毎日何気なく着るのではなく、なぜそれを着るのかを考えてほしい。そうすれば、着る服に迷ったり、相手に誤解を与えたり、不愉快な思いをさせてしまったりすることもないだろう。衣服はコミュニケーション手段の一つと言える。今は誰もが自由にどんな服も着られる時代。選択肢が多いからこそ、自分のものさしを持たなければいけない。「何を選んでいくか」という積み重ねが人生を作っていくと思うからだ。【聞き手・川畑さおり】

    子どもの個性・表現認めて 保坂展人・東京都世田谷区長

    保坂展人氏

     小学生の時には制服はなかった。ただ交通安全のために黄色い帽子をかぶっていたことが記憶に残っている。中学生になる時、初めて詰め襟の制服を試着して「もう子どもじゃないんだ」と緊張感に包まれた。中学校は公立だったが受験校で、「君たちは誇りを持って制服・制帽の校章をよく見えるように着用しなさい」と言われて従ったが、息苦しさもあった。

     中学3年生の時、手続きに従って準備していた生徒総会での発言を封じられたことに抗議して、1日だけ私服登校したことがある。黄色いトレーナーとジーパンで……小さな反抗だった。私が制服を着たのはこの3年間だけだった。

     内申書に問題児と記載されたことで全日制高校5校に不合格となり、都立新宿高校の定時制に進学した。制服はなかったが、学生服を着て登校する級友もいた。昼働いて、勉学を続ける高校生だと強調したかったのかもしれない。

     世田谷区の小学校では制服を採用していない。中学校には標準服があるが、私の耳には、生徒や保護者から「私服を着たい」という声はほとんど聞こえてこない。保護者に聞くと、「制服があると楽だ」と言う。何を着せたらいいのか悩むし、制服もそう安くはないけれど、トータルで見ると服装にかける費用を抑えられる、という理由からだ。学校に限らず制服は、一体性を作り出すツールとして重用されているが、日本には制服を好む文化があると感じる。

     私が学校現場を取材していた1980年代、地方では男子中学生は丸刈りと決められている学校が多かった。一人一人の名前が違うように、本来は子どもの人格も違う。教員の経験談を聞くと、「制服で丸刈りだと同じ顔に見える」とのこと。やはり、個性や特徴を認めてほしいと思う。今は、部活等で丸刈りにしている生徒はいても、「生徒全員の丸刈り」は見かけなくなったし、制帽も減った。なぜやめたのか、理由は曖昧なままに消えていったように感じる。

     制服を着ることによって生まれる秩序や、一体性は学校運営上、必要だという意見もある。それが永遠不変な価値なのかを考えるべきではないだろうか。高度経済成長時代や、校内暴力が多発した後には、「型にはめて同じくする」という強い指導が行われがちだった。中学・高校の生徒指導の先生が、新宿や渋谷を夜回りしていたが、放課後の行動は本来、保護者が責任を持つべきだろう。

     画一的であれという力が過剰に働きすぎている気もする。今後、さらにグローバル化が進み、多様性の時代に変化する。自分の感受性を素直に表現し、率直に意見や主張を述べながら、自分と異なる他者の意見にも耳を傾けて互いに議論する。こうしたプロセスが、これからの教育には欠かせない。

     世田谷区の区立中学にも、ふだんから標準服以外の私服登校を認めている学校がある。女子生徒にはネクタイをする子も、ズボンの子もいる。第2土曜日は「カジュアルデー」として私服で登校している。制服の是非からではなく、「制服オンリー」ではない選択肢・多様性をつくろうと工夫を凝らしている。(寄稿)

    世界が注目する日本文化 相浦孝行・株式会社このみ社長

    相浦孝行氏

     学校指定の制服ではない「自由制服」を販売している。指定の制服がない学校に通う生徒が通学用に選んで着る「一見制服のような私服」のことだ。入学式など式典用に購入する人もいる。中高生向けの男女の商品を扱っているが、売り上げの8~9割は高校生で、最近は海外からの客も多い。

     卒業した新潟県妙高市の県立高校時代は「制服反対」だった。男子が詰め襟学生服、女子がセーラー服だったが、わざと学ランの丈を短くしたり、もも幅の太いズボンをはいたりしてずいぶん先生に怒られた。制服を廃止して個人の自由に任せるべきだと先生に提案したこともある。型にはめられることに反発していた。今は、制服を着ることで生まれる統一感や協調性など良い面もあると感じている。ただ、私立は別として公立校の制服の値段が近年高額になっているのは問題ではないかと思う。

     高校卒業後に東京の専門学校に進学し、就職のため新潟に戻ってから母校の制服が廃止されたことを知った。27歳で創業した婦人衣料品店にある日、母校の女子生徒が母親と一緒に買い物に来た。雑談の中で「制服がなくなってよかったね」と声をかけると、「私服だと大学生も高校生も変わらない。今しか着られない制服を着たい」という言葉が返ってきて驚いた。「高校生として輝くには制服は重要なアイテムだ」という彼女の言葉が印象的だった。

     学校指定ではなく、テレビドラマに出てくるようなかわいい制服を着たいという彼女の願いをかなえようと、生地を調達し、仕立て職人だった母に頼んでチェックのスカートを作ってあげた。同級生にも評判で、これが今の事業につながった。当初は学校指定の制服を作っているメーカーから仕入れた商品を販売していたが、09年にオリジナルブランドを設立した。学生らしさはある程度必要だと思うので、通学用の服としてふさわしいもの作りを心がけている。

     アニメや漫画の影響だと思うが、日本の制服は海外で人気がある。現在売り上げの約15%は海外の客で、年々増えている。これまでにフランスやイタリアなどで制服ファッションショーを行ったが、盛況だった。「スクールユニホーム」と説明すると、現地の人たちは「セイフク、セイフク」と口にする。それほど日本の制服は認知されていて、世界から注目される「文化」になっていると感じる。

     中学3年生の生徒と保護者が高校受験前に店に下見に来ることもある。合格したらこれが着られる、と受験へのモチベーションを高めるきっかけになっているようだ。面白いのは、学園祭の時期になると指定制服がある高校の生徒が店を訪れること。「他校の学園祭に行くのに自分の学校の制服はかっこ悪いから」というのが理由だ。かわいい私服ではなく、かわいい制服を着たいらしい。男子生徒の購入も増えている。スタイリッシュに、よりかっこよくありたいという思いが強いのではないか。彼らにとって制服は自分を美しく、かっこよく見せるための「ファッション」の一つなのだろう。【聞き手・川畑さおり】


    明治時代にスタート

     今年2月、泰明小学校の和田校長が今年度の新1年生からアルマーニ監修の標準服を採用すると発表。上着やシャツ、ズボンなど一式をそろえると最大で8万円を超え、高額すぎると批判を浴びた。校長は「銀座にある学校らしさ」を主な理由に挙げた。東京学校服協同組合などによると、洋服の学校制服は明治時代に採用された。体操や軍事訓練に支障がないことや、エリート意識を持たせる狙いがあったという。


     ご意見、ご感想をお寄せください。 〒100-8051毎日新聞「オピニオン」係 opinion@mainichi.co.jp


     ■人物略歴

    しぎはら・ひろこ

     1957年生まれ。神奈川県立神奈川工業高校産業デザイン科(当時)卒。ファッションコンサルタント会社などを経て独立。服飾専門家。著書に「何を着るかで人生は変わる」など。


     ■人物略歴

    ほさか・のぶと

     1955年生まれ。全日制高校不合格を受け、中学校の内申書制度を問う訴訟を72年に起こす。教育ジャーナリストを経て衆院議員を通算3期11年。2011年から現職、現在2期目。


     ■人物略歴

    あいうら・たかゆき

     1973年生まれ。東京商科学院専門学校(当時)卒。2000年に婦人衣料品店を創業。06年に株式会社このみ(新潟県妙高市)を設立し、社長に就任。映画やドラマの衣装協力も行う。

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