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Interview

ファン・ジョンウンさん 社会を生きて、書く 韓国で注目を集める小説家

ファン・ジョンウンさん=棚部秀行撮影

 韓国の作家、ファン・ジョンウンさんの短編集『誰でもない』(晶文社)と長編『野蛮なアリスさん』(河出書房新社)の2作が立て続けに邦訳された。同国で今、最も注目されている作家の一人。すでに多くの文学賞を受賞し、他の作家からの評価も高い。4月の来日を機に、作品に込めた思いや小説観などを聞いた。

     「登場人物の声が聞こえないと、小説を書き始められません。この人物なら、どんな言葉、音声でどういうふうに語るかを常に考えています」

     韓国で2013年に刊行された『野蛮なアリスさん』は、まさに「語り」に特長があるセンセーショナルな作品だ。

     主人公は、四つ角に立つ女装ホームレスのアリシア。再開発によって失われた町「コモリ」と、そこに住む人々について、<君>に語りかける形式で物語は進む。この町にはむき出しの暴力や欲望、怒りが蔓延(まんえん)し、下水処理場の悪臭が漂っている。繰り返し現れるケージに入った食用犬の鮮烈なイメージ。飛び交う汚い言葉のなかから、近代化のはざまに置き去りにされた人間の、哀切なむせび声が聞こえてくる。

     「アリシアが道路に立ち、存在するのには理由があります。読者を『君』と呼びかけながら巻き込んで、一緒にそれを目撃してほしかった。アリシアがただ、それを望んでいた」と述べた。ソウル近郊には実際にモデルとなった再開発地区があるという。社会の格差や貧困、暴力の問題を、鋭く射抜くように小説で提示している。語り手は<君は、どこまで来たかな>と私たちに問いかけ続ける。

       ■  ■

     一方、16年末に本国で刊行の『誰でもない』には8編の短編が収録されている。12年から15年に発表した作品群。隣人への恐怖、人間への幻滅など、生きづらい現代社会をかろうじて乗り切っている人々の切なくて不穏な日常をつづった。

     例えば「ヤンの未来」は誘拐事件の目撃者になってしまった孤独な女性の物語。「笑う男」はパートナーを失った男の独白で、深い後悔のなかには韓国社会の変容が落とし込まれている。各編では非正規雇用の若者や、乱立した携帯電話ショップ、不動産屋などが描かれる。『野蛮なアリスさん』もそうだが、背景に朝鮮戦争や金融危機を置く設定が見られる。文学の表現と社会矛盾の接続の仕方に、この作家の新しさとユニークさがある。

     「この10年、私の日常と社会の状況が厳密につながっているような感じを受けています。書いている小説と、私自身の距離は非常に近い。自分が属している社会への必然的な反応です。登場人物は、私の日常のとても近いところにいます」

     14年4月、数多くの犠牲者を出した「セウォル号沈没事故」には大きな衝撃を受けたと語る。書くことの無力感から半年ほど執筆が止まってしまったという。再開してから書き上げた小説の一部が『誰でもない』の後半の3作。「間接的に怒りが反映されていると思う」と話す。「だめな大人がいる社会では子供が死ぬ。大人は今の社会の姿に責任を持っている。セウォル号が沈没する光景を見ながら、大人として恥ずかしいと思いました。韓国の大人たちもみな同じことを感じたと思う」

       ■  ■

     1976年、ソウル生まれ。大学の仏文科に入学するも間もなく通わなくなり、インターネットの通信講座で創作の勉強を始めた。05年、新聞の新人文学賞を受賞し作家デビュー。実は幼少時、「貧しくて、苦しそうな表情をしている」というイメージから、小説家はなりたくはない職業だったと明かす。だが今は「小説家になっていなかったら、私はどうなっていただろう。何を楽しみに生きていただろうか」と話す。

     東京都内の書店で開催されたイベントでは、約60人の参加者を前に「韓国で小説を書きながら生きています」と自己紹介した。作家と名乗らない理由を「私にとっては小説を書くことと生きることは等価だから」と説明した。

     新作と次の邦訳が待たれる作家である。【棚部秀行】

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