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気鋭に迫る

必要だった4年半の鍛錬 作家・水原涼(28)

 2011年、近親相姦(そうかん)を描いた衝撃的な小説「甘露」で文学界新人賞を受賞。当時は現役の北海道大学生、21歳。同作で男性最年少の芥川賞候補になり、話題を集めた。現在、28歳になり「あのデビューは自分には早すぎたのかもしれない。今は『再デビュー』の感覚」と目を見開く。『文芸』夏号に中編小説「少年たち」が掲載されるなど、精力的な執筆を続けている。

     鳥取市の出身で、複数の作品で故郷を取り上げてきた。新作の「少年たち」も鳥取東部が舞台。時代設定は十数年前。小さな町で「海側」と「山側」に分かれた不良中学生たちが、血液と酒を混ぜ合わせたドラッグを巡り、抗争に明け暮れる日々を描く。この地方の方言による会話が全編で飛び交う。

     実在の鉱山跡を登場させ、1943年の鳥取地震や、鉱山労働を担った人々の厳しい境遇など歴史の悲劇にも触れた。どこか郷愁的な中学生のけんかの中にも、痛みや暴力の記憶が二重にも三重にも立ち現れてくる。400字詰め原稿用紙236枚は、自身が著した中でも最も長い部類という。

     「集大成とか総決算という言葉はまだまだ早い。でも今回、自分がテーマとしてきたことが一つの形で結実した」と手応えを語った。「鳥取の土地の歴史を書きたいとずっと考えている。書いている人は多くいない。決して強く世に問うつもりはないが、自分なら書くことができるし、意味がある」との思いを強めている。

     ブランクもあった。デビュー後の4年半は文芸誌で小説を発表していない。学業や、大学文芸部での同人活動などに取り組んだ。「文章の鍛錬や修業のために、必要な期間だったと今は思っています。(文芸誌で再び掲載され始めた)25歳が僕の場合は適切だったんだろうと。意識が変わりました」

     昨年、早稲田大大学院で文学の修士課程を修了。拠点を東京都内に移している。新人賞受賞後は、賞金50万円のほとんどを書籍の購入に充てるなどして、本は「1万冊くらいあった」というが、現在は整理して態勢も整えた。『文学界』1月号に「積石」、『すばる』5月号に「干潮」を発表するなど、昨年から今年にかけ相当なペースで新作を出している。

     影響を受けた作家を尋ねると中上健次やウィリアム・フォークナーの名前を口にした。ただ「自分がどんな作家なのか、自分の口で表明はできない」とも。今は、ただただ書いていくつもりだ。「20代で書きたいものを書ききって、今後はそれだけじゃないものも……」と、尽きない意欲が内側から湧いてくる。【大原一城】

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