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創作の原点

陶芸家・坪井明日香さん 一流の先生方に導かれ

 京都市在住の坪井明日香さん(86)は、日本の女性陶芸家の草分け的存在として約60年にわたり一線で活躍してきたと同時に、女性だけの団体「女流陶芸」を60年余率いてきた。女性がやきものに分け入る「道」さえなかった時代、初心を支えた原点とは。

     「うーん……。幼い頃から家の中に土器片がいっぱいあったことや、父に連れられてお寺回りをしていたことなどが体にしみつき、学校で美術に触れたことで自然と志したのかもしれませんね」

     坪井さんは穏やかな笑みをたたえて話し始めた。

     大阪生まれ。父親は大手造船所に勤めながらライフワークとして考古学に携わり、釣り鐘の研究などを手がける知識人。兄は後に考古学者となる坪井清足。母は病弱の専業主婦で「私ができない分、好きなことをやりなさい」と応援してくれた。

     中学・高校は、自由な校風で知られた東京・自由学園で学び、ここで終戦を迎えた。卒業する頃の東京は、少しずつモノや建築が増えてきたが、食器には色が欠けていたという。「まだこの分野は進んでいないな、と思いました。学校で美術を教えてくださった彫刻家の清水多嘉示先生が『陶芸をやりたいなら京都に行きなさい』と」。その1年後、富本憲吉に師事。後に人間国宝となり文化勲章を受章した、近代陶芸の重要人物である。

     富本は進歩的な発想で女性の創作活動に理解を示し、坪井さんを受け入れた。だが、師以外の男性も理解があったかというと、そうではない。ある日、火が入った窯に近づくと「女は近づくな!」とベテランの陶工に怒鳴られた。「すみません、と言うだけ。反骨心を出そうものならつまみ出されてしまいます」。団体展に入選したり、初個展で富本が推薦文を寄せたりしたことで少しずつ理解を得たという。

     女性だけの団体「女流陶芸」を仲間6人と共に結成したのは1957年。「プロとして頑張ろう、という強い意志を持っていました。案外、女性だけの方が甘えがないんです」

     全国的に通用するわかりやすさを考えての命名だったが、女性の冠がつくことで、偏見もあった。結成間もない頃の展示会場で、ある著名陶芸家には「女の団体なのにお茶も出ないのか!」と言われたという。今では立派なセクハラだが、坪井さんは笑い飛ばす。「女性だからこんなにしんどかった、とか言う気はありません。私の原点は、清水先生や富本先生ら一流の方々に出会い、教えを請うことができたこと」と謙虚に語る。

     もう一つの原点は、66年の中国視察旅行だという。「中国の窯で見た作品は立派だけれど端正すぎた。こういう作品を追い求める時代ではないのでは、と考えました」。帰国後、自分しかできない創作とは何かを熟考した。その頃、京都では八木一夫らが率いる前衛陶芸集団、走泥社(そうでいしゃ)などが勢いを増していた。そんな新潮流に刺激を受けた坪井さんも、「造形的な動きがほしい」と器の作品からの脱却を図る。70年以降、たわわに実った果物のように乳房の形を重ねたオブジェ作品「歓楽の木の実」は大反響を呼んだ。

     「自分の洋服作りを通して身体のパーツを考えることが影響したと思ってきました。乳房は女性の豊穣(ほうじょう)の象徴と言われてきましたが、最近、幼い頃のお寺巡りの影響では、と思い始めています。千手観音、十一面観音など、たくさんのパーツが連なることは、特殊な発想ではないな、と」

     昨年、「女流陶芸」は結成60周年を迎えた。全国の美大・芸術大で陶芸を専攻する学生の過半数が女性ともいわれる中、あえて「女流」を名乗り続ける意味はあるのだろうか。

     坪井さんは少し考えた後、こう続けた。

     「多くの会員が家族の介護などを抱えながら、強い意志を持って制作に時間を割いています。発足当時の目的は達成しましたが、女性が困難をより多く抱えていることは変わらない。私が富本先生に助けてもらったように、私が誰かの見本になれば」【岸桂子】=次回は6月9日掲載


     ◆略年譜

    つぼい・あすか

    1932年 大阪市生まれ

      53年 東京・自由学園を卒業。京都で陶芸を始める

      54年 富本憲吉に師事

      57年 「女流陶芸」を結成、代表となる(~現在)

    2004年 日本陶磁協会賞金賞を受賞

      14年 京都府文化賞特別功労賞を受賞

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