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余録

自分だけのことが好きな猫が、愛とかなしみを知ったらどうなったか…

 自分だけのことが好きな猫が、愛とかなしみを知ったらどうなったか。名作「100万回生きたねこ」などの絵本やエッセーを残した佐野洋子さんは、長く母親と疎遠だった。4歳の時、つなごうとした手を舌打ちと共に振り払われて以来のわだかまりという▲母は戦後、中国から5人の子を抱えて引き揚げながら3人を亡くした。夫の死後、女手一つで家を建て、子供を大学まで出した。それでも娘は母を遠ざけ、認知症が兆してからようやくみとるようになった▲娘もまた母となり、本に何度も息子を描いたが、息子の広瀬弦さんは「それがずっと嫌で仕方なかった」と告白している。愛情の注ぎ方が身勝手な「息子を溺愛している自分が好きだった母親」だと手厳しい(「文芸春秋」6月号)▲母性本能に科学的根拠はないというのが定説だが、「母の力」「母の愛」という社会通念は根強い。離婚の親権争いで裁判所が用いる「母性優先の原則」に、近年は男親から実態とかけ離れ不公平だとの批判が起きている▲「母の日」が、カーネーションを贈る習慣の始まった米国で祝日になったのは、100年余り前。当時から「父の日」制定運動もあったが、記念日になったのはベトナム戦争末期である▲詩人の三好達治は、漢字の海の中には母がいて、フランス語の母(m〓re)の中には海(mer)があるとうたった。「母なる海」の例えは、母であり、娘であり、一人の女であり続ける人生のうねりに、豊かな光と影をイメージさせる。

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