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大衆音楽月評

「芸能人は特別」通用しない=専門編集委員・川崎浩

ミュージカル「メリー・ポピンズ」から、メリー・ポピンズ役の平原綾香(右)と島田歌穂=ホリプロ提供

 芸能は、リビドー(衝動)やエロスを根源とした情動、情念の様子を歌舞音曲として表現する場合が少なくない。近年の日本のポップスは「僕はかわいそう」で始まり「僕は寂しい」けど「僕は一人じゃない」から「僕は頑張れる」という自己完結で循環する物語が定番となっているが、一昔前は「アイ・ウォンチュー、アイ・ニージュー」と恥ずかしげもない情欲丸出しが当たり前だった。低俗であろうが、それが、芸能だった。

     芸能人は、その表現の世界と現実の世界を往来する「特別な人間」として、あいまいな規範や価値基準の下で生きていた。世論はともかく、世間はその裏のルールを容認していた。ある芸能人のために泣いている人より、喜んでいる人が多いに違いないという暗黙の了解が根拠であろう。だが、21世紀にはそれは認められない。泣く人が一人でもいれば、芸能人は普通の人どころか逆の意味の「特別な人」となる。元TOKIOの山口達也は、酔っている間に、裏のルールが無くなっていたことに気が付かなかったに違いない。

     また、1月の当欄で示した「NHK紅白におけるジャニーズ系特別扱いの変化」という状況は、これで世論的にNHKを超えて一気に加速するであろう。芸能人だけでなく、芸能界、さらに芸能そのものにも影響を与える大きな事件だったと言えよう。

     芸能ニュースが山口案件に終始する中、芸能界ではすばらしいパフォーマンスが繰り広げられた。

     その代表は、3月から5月に東京・渋谷の東急シアターオーブで行われ、19日から6月にかけて大阪・梅田芸術劇場で公演されるミュージカル「メリー・ポピンズ」である。20世紀初頭の英国ロンドンの銀行幹部宅に舞い降りた不思議な子守役メリー・ポピンズの寓話(ぐうわ)ファンタジー。今の時代に外せない家族物語の甘さと、原作の底流にある人間の不安定な残酷さ、そしてディズニー映画の快活な不気味さを、高いレベルで昇華した。構成や美術、振り付けも「新世代のミュージカル」を打ち出している。平原綾香、島田歌穂の歌唱は、日本のミュージカル臭が皆無で絶品であった。何度も見に行きたくなる仕掛けが満載である。

     9月で引退を表明している安室奈美恵の最後のツアーが4月に京セラドーム大阪で、5、6月に東京ドームで開催。これまで封印することの多かった過去を受け入れ、旅立ちを示す潔い姿は、久しぶりの肉声あいさつも含め感動的であった。2公演とも「芸能」本来の力を見せつけた。=次回は6月11日掲載

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