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大学で英語を学ぶため、イラク北部クルド人自治区の中心都市であるアルビルで1人暮らしを始めたマリアムさん

 「あなたのこと、なんと呼んだらいいですか?」。そう尋ねると彼女は一瞬の沈黙の後、戸惑った表情のままこう答えた。「分からないわ。むしろ教えてほしい。私は一体誰なのか」

     マリアム・バルチアンさん(31)。彼女は20代の頃までそう呼ばれてきた。育ったのはイランの首都、テヘラン。両親と血のつながっていないことは、幼心に気付いていた。19歳の時、育ての父が亡くなると、家族は彼女を冷遇した。彼女はわずかな手がかりをたどりながら、自分の「居場所」を探り始めた。

     赤ちゃんだった彼女が保護されたのは1988年3月、イラクとの国境近くだ。ハラブチャというイラク側の街でサダム政権が化学兵器により、5000人ものクルド人を虐殺した直後。発見されたのは、ハラブチャから逃れる道のりにあたる。

     ハラブチャでは多くの人々が子どもを失い、混乱で生き別れとなっていた。一度はある家族の娘だとして、彼女の名前は「ハウンザ」となったものの、裁判のDNA鑑定で覆る。イラクのクルド自治政府もイラン側も、さまざまな状況証拠からハラブチャ出身だとするものの、いまだに彼女を血のつながった家族として抱きしめる者はいない。

     あの当時、欧米諸国はこの虐殺には沈黙を保ったままだった。化学兵器が引き起こすのは殺りくだけではない。家族を引き裂き、自分は何者なのかという心の礎をなお揺るがし続ける。悲劇にはいまだ、幕が引かれていないのだ。(フォトジャーナリスト)

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