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号外愛媛文書 首相が否定「指摘の日会ったことない」
平和をたずねて

軍国写影 反復された戦争/69 虚構であおる「忠君愛国」=広岩近広

 シベリアで全滅した陸軍歩兵第72連隊(大分)第3大隊(田中勝輔隊長。ウラジオストクに上陸後、砲兵などの配備を受けて支隊を編成)の「ユフタの戦い」は、連隊長の「講話筆記」が出版されて広く読まれた。郷土史家の柴田秀吉氏は虚構が多いと指摘する。なぜ、連隊長は虚構の講話をしたのか。柴田氏は著書「シベリア出兵『ユフタの墓』大分聯隊(れんたい)田中支隊全滅の真相」(クリエイツ)に、こう書いている。

     <大分聯隊隊長として、大分聯隊の名誉にかけて、田中支隊の全滅が「敵の僥倖(ぎょうこう)、味方の不運」によるもので、将兵の死が立派な戦死であることを証明する必要があった>

     柴田氏は<戦死者を弔う責任を感じていた>と連隊長の胸中を察するが、<権力者と軍部>は<これを政治的に利用した>として、次のように続ける。

     <陸軍墓地を訪れたときの上原参謀総長や菊池教育総監部本部長は「大分墓地は国民志気鼓舞の上に忠臣蔵と同じだから東京の泉岳寺、大分の陸軍墓地と言う様に当地方に来るものは皆ここへ参詣する様に導きたい」といった>

     こうした動きに呼応して、連隊長の講話はいっそう熱を帯びる。兵士には「大和魂」を説き、大分県民や国民には「忠君愛国」を呼びかけた。浪曲の台本「嗚呼(ああ)田中支隊」も完成する。連隊長の「講話筆記」が出た半年後のことで、<武士道鼓吹・民衆文芸宣伝の料>にと、浪曲界の巨人・2代目桃中軒雲右衛門が希望したという。

     かつて俳優の小沢昭一さんにインタビューした折、「反戦歌として軍隊をうたっている」と話してくれた。亡き小沢さんの言葉を思い出したこともあり、浪曲台本から一部を引きたい。

     <味方の不運が敵の僥倖、これが真夏であったなら、田中支隊の追撃に、敵は何條(なんじょう)たまるべき、殊勲は我に輝いたもの、嗚呼うらみなれ西氏利亞(シベリア)の雪><田中少佐には華もあれば實(み)もある、忠と義と孝とには真(まこと)の光がある><凍れる手には軍刀逆手、陛下の万歳、凜(りん)たる一聲(いっせい)><はげまされてとびあがったる一人の部下。「大隊長殿、私にも万歳をとなえさして下さい。万歳、御国の為です。皆よろこんで死にます」><「おゝよく云(い)った。一緒に笑って死ぬぞ」>(国立国会図書館デジタルコレクション)

     雲右衛門の口演は迫力があった。柴田氏は、復讐(ふくしゅう)戦の口演を書き留めた。

     <いよいよユフタ戦の次のバーロフカの戦闘では「人道の敵、文化の仇(あだ)、猛悪きはわりなき過激派を、撃ちたて、薙(な)ぎたて、田楽刺し、一人残らず木葉微塵(こっぱみじん)にふみにじり、帝国精兵の威力をば、全世界にかがやかし、凱歌(がいか)をどっとあげにける」となる>

     柴田氏は、こう指摘する。<虚構は、浪曲によってさらに誇張され、素朴で信心深いこの農村漁村県の人々に「過激派・赤露・草賊(そうぞく)」に対する恐怖と復讐心とをあおり立てた>(次回は22日に掲載)

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