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Interview

佐藤優さん(作家) 少年の記憶、今届ける時 初の本格旅行記『十五の夏』

インタビューに答える作家の佐藤優さん=長谷川直亮撮影

 作家活動を始めて14年。これまで『国家の罠』や『獄中記』など話題作を次々と世に送り出してきた著者が、初めて本格的な旅行記に挑んだ。「自分の原点は15歳のあの夏だった。自分の体験を共有できればいいなと思いました」。『十五の夏』(幻冬舎)出版のきっかけをこう語る。

        ■  ■

     1975年の夏、15歳の著者が、両親からの高校の入学祝いとしてポーランドやハンガリー、ルーマニアなど東欧各国やソ連を42日間かけて旅した時のことをつづった。東西冷戦の下、西側の少年が東欧やソ連を1人で旅行するのは極めて珍しかった時代。「当時、東側の国々は『この世の地獄』とか『この世の楽園』とか、評価が分かれていた。実際はどうなのかなと。ロシア文学にも興味があったし、自分で見てみたいと思いました」

     本書では、東欧各国とソ連のまちの雰囲気や人々の様子、ペンフレンドとの交流の場面、列車での移動や宿泊先の確保に悪戦苦闘する姿が、喜怒哀楽を交えながら生き生きと描かれている。「日本よりも公共交通機関が発達し、住環境も素晴らしかった。交流したポーランドやハンガリーの人たちは、私生活をすごく楽しんでいた。本当に衝撃的でした」

        ■  ■

     強く印象に残る場面がある。

     <(56年の)ハンガリー動乱で国民の圧倒的多数がソ連を嫌いになった。そうなると知識人は、ロシア語やソ連事情について一生懸命に勉強するようになりました>

     <どうしてですか>

     <ハンガリーが生き残るために、ソ連との関係が死活的に重要だからです>

     ソ連侵攻の後遺症の残る小国ハンガリーの書店を訪ねた際の書店員とのやり取りだ。

     言外に、良好(安全)な外交関係を築くには、相手のことをよく知る必要があるとの考えが込められている。「米国は日本を完全に壊滅させるだけの核兵器を持っている。でも私たちは米国を恐れない。それは『意思』がないからです。北朝鮮が不可逆的に核開発を行っているなら、北朝鮮の『意思』をなくすしかない。それには、相手を知り仲良くするしかないのです」

        ■  ■

     上下巻合わせて868ページの長編だが、文体は簡潔で読みやすい。時計の針を戻し、「15歳になったつもり」で書いたという。驚くべきは、その記憶の確かさである。旅行中に食べた食事のメニューから会話の内容までを詳細に再現している。「人生のあっちこっちで、あの時の体験を何度も反すうしてきたからだと思います」と振り返る。

     構想は、以前から温めてきたという。では、なぜこのタイミングでの出版となったのか。「作品は書きたいというタイミングがあるが、それとは別に、いま出すべきだというタイミングがある。今回は意図的なタイミングです」。眼光が一瞬鋭くなり、即座に言葉を継いだ。「今の政治家や官僚の資質に非常に危惧を覚えるからです」

     財務省の文書改ざん問題や前事務次官のセクハラ発言、政治家による相次ぐ問題発言……。「能力があって倫理観の低い官僚や、能力がなくてやる気がある政治家が混乱を招いている。こういった人たちを作り出したのが今の教育なんです」と指摘し、「相手の気持ちになって考えることや、未知のものに遭遇した時に自分の頭で考えて対処方針を打ち出せる人をつくる教育が必要だ、というメッセージも込めました」と語気を強める。

     今後、AI(人工知能)化が加速し、社会のかたちが大きく変わるのは間違いない。その中で生きる子どもたちやその親たちの行く末に思いをはせる。「雇用がどうなるかも分からない中、生き抜くためにどう教育してどこにお金をかけたらいいのか。そういう時にこの本を参考にしてもらえたら」

     インタビューの終了間際、こう尋ねた。あの夏がなければ、今何をしていたか。「多分、中学校の英語か社会の先生になっていたでしょうね」。いたずらっぽく笑った。【武内亮】

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