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Country・Gentleman

田舎暮らしは何事も経験=C・W・ニコル

アファンの森も新緑の季節を迎えた=C.W.ニコル・アファンの森財団提供

 <カントリージェントルマン>

 東京ではサクラの見ごろもとうに過ぎたころ、黒姫のわが家のサクラは満開を迎えた。雪国では、サクラの開花と時を同じくしてハクモクレンも乳白色の大輪の花をつける。そして、ノビルなどの山菜と競うように、野の花が一斉に姿を現すのだ。

 私が黒姫の森(長野県信濃町)の再生に着手した際、間伐をする一方で、多くの苗木も植えた。その中にはヤマザクラも含まれていた。自然林には、都会で愛される華やかな品種よりヤマザクラが似合う。日本、韓国、中国を原産とするヤマザクラは短い茎に2~5個の花房をつける。花の色は白色か淡紅色で、ひとつの花に花弁は5枚だ。

 25年ほど前、池を二つ作り、そのまわりにヤマザクラを植えた。池を掘ったのは、雪解けのころになると水たまりができたからだ。晴天続きで地面がひび割れていても、その下は相変わらずひどくぬかるんでいる。池を作ると、停滞していた地下水が流れるようになり、植えた木々も十分な水を得られるようになった。カエル、イモリ、カモにサギ、この池にはあらゆる生き物が集うようになるだろう。

 池のほとりに座って美しいサクラとそのかなたに雪をいただく山を眺めながら酒を飲む年を重ねた自分。カエルが池に飛び込む水音に耳を傾けるような、文学を愛する教養人。そんな姿まで夢想した。我が家からほんの数キロ先に生家がある著名な俳人、小林一茶の作にこんな句がある。

古池や 先御先へと とぶ蛙(ふるいけや まずおさきへと とぶかわず)

 芭蕉の句ほど有名ではないが、私のお気に入りだ! あれから30年以上がたち、池のほとりは森の「花見スポット」の一つになっている。

 もう一つの花見スポットは、ホースロッジの目の前だ。ここには当初、クリやトチなどとともにシダレザクラを植えた。その苗木は、我が家から1キロほど離れた小さな公園で枯れかけていた老木からとったものだった。朽ちた木の年輪を数えてみると、なんと樹齢500年を超えることがわかった。古木を救う方法として、セイヨウミザクラに接ぎ木して苗を育てる道を選んだ。

 今、ホースロッジのかたわらでシダレザクラの一群が花をつけている。ロッジの主である茶々丸と雪丸は、ともにケタ外れの健啖(けんたん)家だ。食べられるものなら何にでも食らいつく。雪のせいで忙しくなった我々が放っておいたら、たちまち若木の樹皮の味と歯ごたえを覚えてしまった。「あっ」と思ったときにはサクラが2本、馬の頭の高さのところだけぐるりと皮を剥がされていた。恐らくは立ち枯れてしまうだろう。残る5本には樹皮剥ぎ防止ネットを取りつけた。田舎暮らしでは何事も経験。痛い目を見ても笑って乗り越えるのが一番だ!(訳・森洋子)=次回は6月13日掲載

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