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カンヌ映画祭便り

第8日 自動車工場の労働争議 映画「アット・ウォー」が示すフランスの現実

「アット・ウォー」の公式上映を終え、観客の拍手に笑顔を見せるステファヌ・ブリゼ監督(中央)=フランス・カンヌで2018年5月15日、小林祥晃撮影

 カンヌ国際映画祭は8日目となりました。

     全日程12日間の折り返し点を過ぎ、既にたくさんの作品が上映されましたが、コンペティション部門で14日から15日にかけて上映された2本は、欧米社会が直面する現実に改めて目を見開かされる内容でした。

     まず、15日に公式上映されたフランスのステファヌ・ブリゼ監督の「アット・ウォー」。フランスの自動車部品工場での労働争議を描いたドラマです。

     主人公ローランの勤務する工場の親会社はドイツにありますが、一方的に工場の閉鎖を決めてしまいます。1100人の雇用を守るため、ローランは従業員代表として経営陣と向き合います。当初は団結していた従業員たちですが、労使対立が長期化するにつれ、考え方の違いが表面化。閉鎖を受け入れれば金銭面で優遇するという会社側の提案もあり、従業員は分断されていきます。

     ステファヌ・ブリゼ監督は、2015年にカンヌ国際映画祭のコンペティション部門で作品が上映された実績があり、俳優の経験もあります。今回の作品は、ひたすらローランたちの議論や労使交渉をカメラで追い続け、まるでドキュメンタリーのような雰囲気です。

     異色なのは、上映時間1時間53分のほとんどで、登場人物が言い争っていること。当初は登場人物の勢いに引っ張られ、映画の世界に引き込まれましたが、静かな場面に転換するなどのアクセントが少なく、私は途中から「単調」に感じるようになっていました。

     しかし、周囲の観客は違いました。終盤の労使交渉で、のらりくらりとした対応をする経営陣にローランが鋭く反論する場面などで、大きな拍手が何度も上がり、指笛の音さえ聞こえてきました。私は「おいてけぼり」にされた気分でした。

     公式上映が終了すると、監督や俳優陣へのスタンディングオベーションが10分以上続きました。他の作品の上映後でも見られる光景ですが、今回はその「熱さ」が違っているような気がしました。

     外に出てから気付きました。今、フランスではマクロン大統領の公共部門改革を巡り、社会が揺れています。5月1日には、パリ市内で「メーデー」のデモ隊の一部が暴徒化し、店や車に放火するなどの暴動がありました。このカンヌ映画祭の開幕直前にも、航空会社のエールフランスやフランス国鉄がストを実施し、各国の関係者の到着が遅れる事態にもなっていたのです。「アット・ウォー」の観客が、まるで映画の中の労働者と一体化したかのように熱くなっていたのも、このような影響があったのかもしれません。

     もう一つは、14日と15日に上映された「ブラッククランスマン」です。「マルコムX」などで長年、黒人差別について問題提起を続けてきたアメリカのスパイク・リー監督の最新作です。半世紀ほど前、アメリカの人種差別組織のクー・クラックス・クラン(KKK)に潜入捜査をした警察官の実話が基になっていますが、軽快なテンポと随所にちりばめた笑いで、テーマの重さを感じさせません。

     しかし、そこはスパイク・リー監督。昨年8月12日、アメリカ南部のバージニア州で、白人至上主義者による集会に反対する市民に自動車が突っ込み、女性が亡くなった事件についても触れる演出をしています。

     この事件について「双方に非がある」と発言して批判を浴びたトランプ大統領のキャッチフレーズ「アメリカファースト」という言葉をギャグとして使っている場面では、観客から大きな笑いと拍手がわき上がりました。上映後の長い拍手も、あらゆる差別への抗議の意思が込められているように聞こえました。

     エンターテインメント性と社会性を兼ね備えた、見て損はない作品に仕上がっていると感心し、この時ばかりは「セ・カンヌ!」ならぬ、「セ・アメリカン・ムービー!」(これぞアメリカ映画!)と言いたくなりました。

     グローバリズム、社会の分断、人種差別問題は今なお、世界を暗く覆っている問題です。それらに苦しむ人たちに共感し、共に闘う勇気を与えてくれるのも映画の力です。ノミネートされた作品を通して、カンヌ国際映画祭の主催者の問題意識も見えてきます。【小林祥晃】

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