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「出自より生きる権利を」 「赤ちゃんポスト」国際シンポ

ドイツで最初にできたゆりかご「ベビークラッペ」について説明するとハネス・ゲルトナーさん=ドイツ北部のハンブルクで

 親が育てられない子どもを匿名で受け入れる「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」が熊本市の慈恵病院に開設されて11年。今年4月、ゆりかごをテーマにした国際シンポジウムが同市で開かれ、各国の施設運営者らが取り組みを報告した。

     ●当事者が体験談

     ゆりかごに相当する設備は少なくとも世界11カ国にある=表。シンポジウムには、11カ国の施設運営者や研究者ら約400人が参加した。出生直後に遺棄された経験を持つ米国人のモニカ・ケルシーさん(45)も出席。貴重な体験談に多くの人が耳を傾けた。

     ケルシーさんの母親は17歳の時、性暴力の被害に遭い妊娠、出産2時間後に病院を立ち去った。出生の経緯を知り何カ月も苦しんだというが、当事者だった自分だからこそ性暴力や望まない妊娠などに悩む人を助けられると考え、ゆりかごに相当する「ベビーボックス」導入に奔走。米国では2016年に最初のベビーボックスが開設された。

     ゆりかごには、子どもが成長したときに自分のルーツを知る権利(出自を知る権利)を奪う、との批判も根強い。これに対しケルシーさんは「私は両親が誰かを知るより、自分の人生を送りたかった。批判は私には当てはまらない」と話した。登壇した各国の代表者たちも同様に主張。南アフリカの運営者は「批判する意見があることは認めるが、生きる権利は出自を知る権利よりはるかに重要。命を救うためにベビーボックスはある」と意義を強調した。

     ●先進国ドイツ

     ドイツは、親が育てられない子どもを救う国を挙げての取り組みで知られる。「ベビークラッペ」と呼ばれるゆりかごは00年に開設され、現在は国内に93カ所ある。

     北部の都市・ハンブルクの保育施設に初のベビークラッペを設置した教育団体「シュテルニパルク」のライラ・モイズィッヒさん(38)は「前年に乳児の遺棄事件が立て続けに発生しており、私たちが何らかの受け皿を作らなければいけないと感じた。子どもを遺棄する人は殺人者ではなく、大きな支援が必要な人だと話し合った」と振り返る。

     「赤ちゃんを預けてくれさえすれば死なせない」。開設は大きな反響を呼び、国中に広がった。この団体が運営する3カ所のベビークラッペは、これまで計52人を受け入れ、成人を迎える子どももいる。ハンブルクのベビークラッペを管理するハネス・ゲルトナーさん(38)によると、以前預けられた子どもが出自を知りたいと保育施設を訪ねてきた際は、当時の写真を見せながら経緯を説明したという。

     ドイツではベビークラッペ開設と同時期に、母親が身元を明かさずに医療機関で安全に出産できる「匿名出産」の取り組みも始まった。また、14年には「内密出産制度」が導入されている=別項。現在、ベビークラッペの利用は減少傾向にあるが、利用が途絶えたわけではない。モイズィッヒさんは、「大切なのは匿名出産とベビークラッペが残ることだ」と望まない妊娠後に出産をためらう母親に、幅広い選択肢を提示する必要性を訴えた。

     ●母性神話強い日本

     日本のゆりかごには、昨年3月末までに計130人の子どもが預けられた。母親の年齢層は10~40歳代と幅広く、生活困窮や未婚、世間体--などの理由が多数を占める。複数の要因が絡んだ事例も多い。平均して毎年10人以上の赤ちゃんの命を救っている施設にもかかわらず、慈恵病院以降「第2のゆりかご」は誕生しない。なぜなのか。

     ゆりかご運営は、まず金銭面での負担が重い。慈恵病院は年間約2000万円の運営費用のうち、約1500万円を自己負担しており、一施設で抱えるにはハードルが高い。神戸市の助産院で17年、ゆりかごを設置する動きが出たものの、医師の常駐を巡って行政側と折り合いがつかず頓挫している。

     また、開設当時、厚生労働省は「違法とは言えない」との見解を示したのみ。安倍晋三首相は「匿名で子どもを置いていけるものを作るのがいいのか。大変抵抗を感じる」などと発言した。政府を巻き込んでの議論が展開されたドイツやラトビア、ロシアなどとは対照的に、日本ではいまだに「一民間病院の取り組み」との認識が根強い。

     日本の消極的な姿勢については、シンポジウムでも話題に上った。慈恵病院の蓮田健副院長は「日本でのゆりかご批判には、出自を知る権利が奪われることへの懸念よりも前に、母親が子どもを育てなければならないという『母性神話』信仰が強く影響しているようだ」と指摘する。【井川加菜美】

    病院では匿名「内密出産」

     シンポジウムでは、ドイツの「内密出産制度」を巡る報告もあった。匿名出産では子どもが自分の出自を知ることは難しいが、内密出産制度では母親が妊娠相談所の相談員に実名を明かせば匿名のまま病院で出産でき、子どもは16歳になると出自を知ることができる。

     孤立した母親が自宅出産するなどのリスクが減る利点があり、ドイツでは2014年に導入された。韓国ではドイツの制度を参考にした「秘密出産に関する特別法案」が既に国会に提出されたという。一方、日本では慈恵病院が同様の制度の導入を訴えているが、現行の戸籍法では子どもが無戸籍になる可能性があり、行政側の腰は重い。


    こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)

     親が育てられない子どもを匿名で受け入れる設備。新生児遺棄事件が相次いだことを機に、2007年に熊本市の慈恵病院が開設した。病院の一角にある扉の奥に保温設備付きの保育器があり、子どもが置かれるとアラームが鳴って職員が駆けつけ保護する。昨年3月までに130人が預けられた。


    ゆりかごをめぐる世界各国の主な動き

    米国   2016年4月、インディアナ州に初めて設置。現在は2カ所で運営

    中国   2011年に河北省石家荘市に設置。14年6月までで32カ所、計約1400人を受け入れたが、閉鎖や運営停止した場所も

    ドイツ  2000年に保育施設に初めて設置。「ベビークラッペ」と呼ばれる。一時は100カ所以上が設置されたが、現在は93カ所で運営

    インド  1978年にデリーに設置され、約3000人が預けられた。公共の場で捨てられ、警察が連れて来ることもある

    韓国   2009年にソウルの教会に設置された。17年12月末までに2カ所で計1400人の子どもを受け入れ

    ラトビア 2009年に大学病院に初めて設置。現在8カ所あり、これまでに43人が預けられた

    日本   2007年、慈恵病院に設置された。17年3月までに計130人が預けられた

         他にポーランド、南アフリカ、ロシア、スイスに設置

     ※シンポジウムでの報告を基に作成

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