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ややパリには遠く~南仏留学記

フランス流? 「うちのもてなし」

食卓に並ぶ3種類のマスタードと、紙にくるんだまま無造作に置かれたバター

 フランス北部・ノルマンディー地方にあるルーアンという町に、フランス語習得のため今年の4月から留学しています。フランス語はほぼゼロからのスタート。新聞記者の仕事を離れ、留学生の目で見て気になったことをあれこれ日記風につづっています。

 先日、夕飯の食卓にマスタードが3種類も出てきて驚きました。

 粒の大きさなどが異なるマスタードを取り、ハンバーグに添えました。

 その前の日にはバターが2種類、並んでいました。濃厚な味に「え?!これチーズじゃないの!?」と食べてから大笑いしていたのは、同じ下宿生でオーストラリア人の65歳、フィリップ。

この日の主菜はズッキーニのグラタン。ご飯と一緒に。パンも常に食卓にあります

 ルーアンに来てから1カ月。外のレストランで食べる機会は多くないけれど、下宿先の夕食でフランスの食の豊かさやこだわりを印象付けられています。

7人で囲む下宿先の夕食

 語学学校に紹介されたベロニクとパスカルというご夫妻の家庭に下宿しています。

 私やフィリップの他にスイス、コロンビア、韓国から来た20代の留学生もおり、5人にそれぞれ個別の寝室が与えられています。

 夕食時は総勢7人が食卓に集い、さらに夫妻の長男(大学生)もたまにやってきます。先週は次女が息子2人を連れて里帰りしていたものだから子供用の補助椅子も導入されてにぎわいに拍車がかかり、2匹の飼い猫はさすがに寄り付きませんでした。

 20代の食べ盛りを含む留学生たち(でも65歳のフィリップも負けない量を食べている)のために、毎日がパーティーほどの量の食事を夫妻は準備しなければならないわけです。それにもかかわらず昼間に誰かが台所に張り付いている様子は皆無。

 我が身を振り返ると、家に友人を数人招いただけでガス台の前をかたときも離れられなくなり、帰り際に「今度は久野さんも参加してね」と言われる手際の悪さ。

下宿生のみんなとベロニク、パスカル夫妻(後列中央の2人)

 ベロニク、パスカル夫妻の「日々のもてなし」術を観察していると、時間を節約しながら留学生たちの心もおなかも満足させてくれていることが分かりました。

前菜・主菜・デザートでも、お皿は1枚

 夕食は「前菜・主菜・デザート」という順番が下宿先では基本です。

 「おいしいけれど説明が難しそうなもの」がお皿にちょんと載っていたり、いくつもお皿が出てきたり、ということはまずありません。

 前菜は今の時期ならスイカやメロンを豪快に切って、ボウルに盛るだけ。トマトやレタスの出た日は、これもお皿に取り分けて各自で食べやすい大きさに切り、ドレッシングをかけていただきます。ハムやサラミなどの加工肉が出ることもあります。

 その間に「さて、きょうは学校で何があった?」とお母さんのベロニクが切り出して食卓の会話が温まり始めます。

 ポイントは、メインの料理に移る時にお皿を変えないこと。これで洗い物を増やしません。お水も節約。ドレッシングやソースが残ったらバゲットにつけて食べます。コロンビア人のパウラは、いつもほれぼれとするくらいお皿を真っ白にして次の料理を待ちます。主菜へ行く頃、会話はたいていフィリップの独壇場に。大きな耐熱皿にラザニアやグラタンがオーブンから出てきます。これはお父さんのパスカルが作ることも多い様子。ラタトゥイユなどの煮込みはベロニクの得意料理です。

 「フランスといえば!」のワインですが、うちではいわゆるワイングラスではなく、落としても割れない分厚いグラスで、少しずつ。

 主菜の後にチーズが3種類ほど冷蔵庫から出てきて、まだまだおしゃべりは続きます。

 デザートは、たまには手作りのチョコレートムースだったりしますが、フルーツや「アラブの店で買ってきた」という砂糖と油がたっぷりの焼き菓子(揚げ菓子?)が出ることも。

 最後はそれぞれが使った食器を食洗機に並べて、「Bonne nuit. A demain(おやすみ。またあした)」と言っておしまい。最初から終わりまでで2時間くらいでしょうか。

チーズやデザートは会話を楽しむための「お茶請け」

 この献立、日本で話題になった「一汁一菜」に考え方が近いなあと思いました。

 もちろん、おみそ汁やおつけものに比べればひと品の量がすごく多いことなど違いはあります。でも、基本は前菜と主菜はひと品ずつ。しかもオーブンや圧力調理器具を駆使してシンプルに。でもスパイスにはベロニクのこだわりがあって、調理台の引き出しには小瓶がぎっしり詰まっています。チーズやデザートに手間のかかるものはなく、あくまで会話を楽しむためのお茶請けという感覚でしょうか。

 食卓を切り盛りするベロニクは、市内の保育所で保母さんをしています。帰宅前には携帯電話のアプリでパスカルに、「ニンジン切っておいてね(ウインクのついた絵文字)」などと指示を出しているそう。食洗機を指して、「フランス人は、こういうところに時間をかけないのよ!」と笑っていました。

 メニューの数は増やさず、簡単にテーブルに出せる野菜やチーズ、デザートを活用して会話を楽しむ-。もちろん、これがフランス家庭の食卓だと一般化はできません。でも、毎日の食卓を大勢で楽しむヒントを2人からもらったような気がします。

 ところで、食卓ではさも私まで愉快に会話に参加しているように書きましたが、「ほぼ2周遅れ」で参入するというのが実際のところ。他のメンバーがひと笑いした後で目を白黒させた私を見かね、パスカルが「ちょっと彼女にも今の話を説明してやってよ」と気を使ってくれる始末。情けない限り。

 フランス語は英語と違い、つづりと発音に規則があります。それを覚えれば誰でも読めるようになります。「にもかかわらず、それをすべて忘れ、語学学校の発表会で何も話せなくなる」という悪い夢を見て、今朝は目が覚めました。【久野華代】

久野華代

1983年三重県生まれ。東京外国語大学を卒業後、2006年に毎日新聞に入り北海道や東京で記者として働いた。日当たりの良いテーブルか、あたたかい布団で本を読むことが好き。寒い部屋ならルイボス茶をいれる。山菜採りも好き。

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