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森健の現代をみる

これからの日本の安全保障 今回のゲスト 冨澤暉さん(その1)

談笑する冨澤暉さん(右)と森健さん=東京都千代田区で

 ジャーナリストの森健さんが、各分野で活躍する人との対談を通じて現代社会の諸問題を展望する企画。2回目は元陸上幕僚長、冨澤暉さんを招いた。朝鮮半島など激変する国際情勢の中、日本には何が必要か。改憲の是非は。どんな議論をすべきなのか。今後の安全保障を考えた。【構成・栗原俊雄、撮影・太田康男】

    テロ、サイバー攻撃への備えができていない

     森 朝鮮半島では、南北の首脳会談で劇的な変化がありました。日本の安全保障、防衛戦略にどんな影響がありますか。

     冨澤 元々、北朝鮮が日本に核先制攻撃をする可能性は低いと思っていました。米朝会談がまとまり朝鮮半島の非核化が実現したとしても、日本は何よりもテロ・ゲリラ、サイバーへの備えを固めなければなりません。今はその準備がほとんどありません。

     森 民間も対象になります。どこまで守れるのでしょうか。

     冨澤 原発や新幹線、都市生活のインフラも狙われるでしょう。この分野では、同盟国・アメリカは頼りにならない。ベトナム、中東などでほとほと懲りているので、「アジアのことはアジアでやってくれ」と。それで、サイバーに対しては、日本では陸上自衛隊が最初に防御組織をつくりました。

     森 どの程度の攻撃を想定したのでしょう。

     冨澤 陸自がつくったのは、自分たちの電子機器を壊されないようにするもの。しかし専門家に聞くと、攻撃が最大の防御で、どうしても先制攻撃が必要になる。そうすると日本の常識である「専守防衛」では難しい。また、現在の日本は官公庁や民間会社などが各個に対策をしています。しかし本来は国家がしなければ。国家安全保障会議(NSC)の中に統括する部署をつくるべきです。

     森 自衛隊への期待も高い。

     冨澤 「何でも自衛隊に」という声は多いんですよ。しかし自衛隊は「打ち出の小づち」ではありません(笑い)。サイバーにしてもテロにしても、現状では極めて不十分。人の育成と情報の蓄積が必要です。訓練しないことはできません。本腰を入れるには、相当の人もお金もかかります。政治の責任です。

     森 日本は安全保障では、アメリカと一体化して情報管理をしているところがありますが、リスクが多いように映ります。

     冨澤 アメリカからもらう一方ですよ。ただアメリカも日本からの見返り情報に応じて情報をくれるので、もらうためにも、自ら情報の狙いを定め、情報資料を収集し、それを分析し、それにどう対応すべきかまでを考える。そういう日本独自のシステムが欠落しています。旧軍時代から情報軽視でした。作戦を立てる場合「敵はかくありなん」と決めつけてしまう。「こういう作戦をやりたい」から始まり、都合のいい情報を書く。

     森 海外への派遣についてはどうですか。ジブチ=注<1>=やイラクに派遣された自衛官に話を聞くと、自衛隊の活動を見た他国の兵士や派遣国の市民から信頼度が高まると聞きました。

     冨澤 地元の人たちと仲良くなることが、テロ・ゲリラ対策になります。旧陸軍の時代もそうでしたが、陸自は常に地元の人たちとの交流に力を入れています。郷土部隊という誇りもあります。私は小隊長だった昭和38(1963)年ごろ、北海道の長沼で援農、田植えや稲刈りの手伝いをしました。当時「愛される自衛隊」を目指していましたが、それは今振り返るといろんな面で成功しました。

     森 その伝統が海外でもうまくいった。

     冨澤 最初の国連平和維持活動(PKO)でカンボジア=注<2>=に行った時からね。イラクに行った時も、当時の隊長が地元の部族長と、苦手である羊の肉を食べながら話をして親交を深めました。

     森 日本には北朝鮮、中国への脅威論が根強くあります。

     冨澤 日本は72年間、戦争をしませんでした。これからも戦争はないと思います。今後重要なのは戦って勝つことではなく、軍隊を持って外交のカードにすることです。平和的に話し合うにしても、そのカードが必要。今、日本にはそれがない。あとは損害をできるだけ減少する手段しか取れない。

     一つは、核シェルターの整備=注<3>=を進めること。また、テロに対しては、これも今の警察・自衛隊の陣容では対処できません。テロリストに対応できる、武装警察を整備すべきだと思います。それからゲリラを見つける組織。たとえば全国の消防団の人たちが80万人ほどいますが、これを情報網として整備することですね。

     森 自民党の憲法改正案についてはいかがですか。

     冨澤 現役時代は言えませんでしたが、憲法は変えてもらわないと困ると思っていたので、そういう動きが出てきたことはいいと思います。ただ2005年に自民党が発表した改憲草案には「自衛軍」とあった。英訳すれば「Self Defense Force」です。自衛隊と変わらない。しかし世界で、自衛しかしない軍隊はあり得ません。日本人は長く「自衛以外は侵略だ」と思い込んできましたが、自衛は防衛の一手段でしかありません。


    冨澤暉さん=太田康男撮影

     ■人物略歴

    とみざわ・ひかる

     1938年、東京生まれ。中学時代まで福島県で育つ。60年防衛大学校卒、陸上自衛隊入隊。第1師団長などを経て93年7月から95年6月まで陸上幕僚長。現在、公益財団法人偕行社理事長などを務める。著書に『軍事のリアル』など。

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