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もう一度食べたい

あずきいちご ルビー色、舌の上でプチュッ

 「有由有縁」(わけありて縁あり)。取材の旅から帰り、この言葉の不思議さをかみしめている。我が家の庭にあった「天からの贈り物」の正体がやっと分かったのだ。その名はウグイスカグラ(鶯神楽)。山陰・米子(鳥取県米子市)周辺の子どもたちが「あずきいちご」と呼んでいた、ルビー色の小さな木の実である。

     かき氷のメニューにでも登場しそうな名前を初めて目にしたのは5年前、米子市の吾郷(あごう)静子さん(82)からのはがきだった。「梅雨の頃、グミの実より小さく、小豆の形をして枝にぶら下がって実ります。実家の庭や近くの林にもあり、子どものおやつでした」

     鳥取、島根両県の知人や観光農園に取材したが分からなかった。昨年も心当たりに電話を入れたが、やはり見つからなかった。そんなとき、今度は静岡市の稲葉恵子さん(68)から「あずきいちご」のリクエストはがきが届いた。「5月に花が咲き、6月に赤いルビー色の丸い実をつけます。実家(米子市)の庭で独り占めして食べていた甘い実をもう一度食べたい」。吾郷さんも稲葉さんも「ユスラウメより水っぽく、甘かった」とつづっていた。

     どんな木の実なのか。植物図鑑などで調べたが、その名は出てこない。半世紀以上も前の思い出である。半ば諦めながら5月の連休が終わったころ、2人に電話を入れた。すると吾郷さんは「見つけました。確かめていませんが葉っぱが似ています」。稲葉さんからも「実家の姉に電話したところ、庭の片隅に1本残っていました。何個か赤い実があるそうです」と連絡があった。5月半ばに熟す木の実だったのである。

     吾郷さんが「見つけた」という「鳥取県立フラワーパークとっとり花回廊」(南部町)に向かった。展望回廊わきの林の中に1本。高さは約2メートル、幹の太さは3~5センチ。何本もの徒長枝を伸ばし、糸のような果柄の先に真っ赤な実がぶら下がっていた。我が家の庭に野鳥が運んできた「天からの贈り物」にそっくりの果実と木肌。名札を探したが見つからず、実を摘んで甘さを確かめることもかなわなかった。

     翌日、稲葉さんの実家を訪ねた。家を継いだ姉の高塚芳枝さん(76)に聞くと「妹が大好きだった木の実とは知らなかった」と話し、夫の昌巳さん(78)も「食べたことがない。食べるのはもっぱら桑の実だった」。案内された庭の角地に花回廊と同じ木があった。幹の太さは12センチほど。株元はウロになっており、子どもの頃から、ここに植わっていたという。ただ毎年、四方に伸びる枝を刈るので、高さは大人の背丈ほどしかなかった。

     イヤリングのようにぶら下がる赤い木の実をひとつ、摘んで口に含んでみると「ああ、あの味だ!」。舌の上でプチュッと潰れる食感、ほのかな甘さ。2年前に枯れてしまった、我が家の正体不明の木の実と同じ味だった。

     取材から帰り、改めて樹木図鑑や植物図鑑を調べ「あずきいちご」の正式名が分かった。「和名はウグイスカグラ。ウグイスノキとも言うそうです」。そう高塚さんに電話で伝えると「これも縁ですかねえ。つい先日、お神楽さんが家に来て、獅子舞に頭をかんでもらったのですよ。不思議ですねえ」。芳枝さんの明るい声が返ってきた。(明治大学総合政策研究所研究員・津武欣也、写真も)=毎月第4日曜日に掲載

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