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自転車でGO!

/21 アイ・ロスト300グラム

老若男女が集まる放送大学の学習センター=東京都足立区で

 この連載は日本語なら「自転車で行く!」。いや、主語なしで動詞の原形だから、命令形で「自転車で行こう!」か。問題はそこから先。「ずっと自転車で行っていた」「もし自転車で行っていたなら」。過去完了や仮定法になると、意外に難しいものだ。この際、おさらいしてみよう。

     大人の学び直しに向いているという放送大学で、授業を受けることにした。文部科学省に認められた正規の大学だが、高校卒業資格さえあれば無試験で入学できる。テレビやラジオでの放送授業を中心に、幅広い選択科目から自分で学習計画を立てるシステムだ。4年で卒業する必要はない。登録する科目数に応じて授業料を納入する。今回受講する基盤科目「英文法・実践的英語力の基礎」は土日に2日連続で登校する面接授業。午前10時から午後5時過ぎまで教室で先生に教わる。85分授業が計8回で1単位。授業料は5500円だった。

     五月晴れの土曜の朝、東京都足立区の学習センターまで自転車で出かけた。荒川土手を悠々と走るのは爽快そのもの。30分ちょっとで着いた。このまま川沿いを東京湾まで走っていきたいが、アイ・ハフトゥ・スタディー、勉強せねばならない。

     教室に入ると、学生は35人ほど。男女半々で40~60代が中心だ。日本人女性の講師が「最初の現在形は簡単です。だんだん難しくなり、明日はかなり難しいですよ」と、大人をびびらせる。授業は、映画を見たり音楽を聴いたり英語の小説を読んだりと、飽きさせない工夫がこらされている。2人1組で話す「ペアワーク」もあった。私の相手は72歳の男性。趣味のアマチュア無線で外国の人と交信するとき、少しでも会話が続くよう英語の基礎を勉強し直したいと考えたそうだ。2時間目の過去形でつまずき、「中学校できちんと勉強しなかったから難しいですね」と漏らした。

     4時間目、未来形の課題が出た。「3年後に自分がどうなっているかを日本語で書き、それを英語にしてペアの人に伝えてください」。先生が言うには、実現可能性を問わず、夢のある内容がいいとのこと。私は「自転車に乗り続け、3年後には体重が70キロ台になっているだろう」と考えた。しかし直近1カ月の成果はわずか300グラム。このペースでは36カ月後、まだ87キロだ。工程表を作り直す必要がある。隣席をうかがうと、72歳男性は将来の姿を想像しにくいらしく、「日本語でも思いつかない。だって3年後、私は後期高齢者ですよ」。それでも一緒に考え、「アイ・ウイル・ビー・ア・コーキコーレーシャ・スリー・イヤーズ・レイター」と、まずまずの文章ができた。

     2日目、映画「ローマの休日」でオードリー・ヘプバーン演じる王女と男性記者との会話を追体験し、学習意欲が高まった。あの名場面「2人乗りスクーターでGO!」は自転車でも楽しいかもしれない。授業がすべて終わり、隣席の男性に話しかけられた。「難しかったけど楽しかったです。ありがとうございました。またいつかどこかで」。こちらこそ、ありがとうございました。大きな声で生き生きと勉強されていた姿に、人間の学びに年齢制限はないと勇気づけられました。

    1968年に日大全共闘の学生らがかぶっていたヘルメット

     大学といえば、今から50年前の1968年5月21日、東京・神田三崎町の日本大学経済学部地下ホールで、学生たちが集会を開いた。大学の巨額の使途不明金が発覚したのをきっかけに、集会の自由や言論の自由がない日大で、学生たちが民主化を求めて立ち上がった日大闘争の始まりの日とされる。これを体育会学生が暴力で妨害し、やがて日大全共闘が結成されることになる。

     ちょうど半世紀後の今月21日、日大アメリカンフットボール部の男子学生が大学側から事情聴取を受けた。試合での重大な反則行為に関する聞き取りだったが、この学生は大学側の対応が遅いことや、部としての聴取予定がないことに絶望。翌22日に実名で記者会見し、監督・コーチの指示や、反則行為に至った経緯について詳しく説明した。

     会社から日大までは自転車で5分。路上で日大生に感想を聞いてみた。監督は学校法人の常務理事でもあり、理事長や学長に次ぐ要職と言える立場だった。「監督らの態度は責任逃れのように見えました。そういう大学と思われてしまいそう」「体育会の学生は、いざとなれば大学職員として雇ってもらえるかもしれませんが、僕らは就職に影響しないか心配です」。学生たちは困惑した表情で話した。

     大学スポーツに詳しく「体育会系はナゼ就職に強い? 努力と挑戦を重ねたタフな精神力」の著書もある百瀬恵夫・明治大名誉教授は、こう憤慨する。「今回は指導者に武士道精神が欠けている。縦社会の体育会ではリーダーに責任を取る覚悟が必要。あのような対応を放置すれば大学スポーツ全般がダメになります」

     日大の体育会各部は最強のアスリート集団だ。自転車部も私の学生時代から無敵の強さを誇っていた。私は追走すらできない惨敗を喫し、身の程を知らされた。彼らは早朝から深夜まで厳しい練習を重ね、インカレ(大学選手権)30連覇を達成した。フェアプレーで頂点に上り詰めていた。その栄光にまで「殺人タックル」を食らわされたようで、気の毒でならない。

     体重を毎日測定し、その月に最も軽かった数字を記録する。今月、300グラムしか変動しなかったわけではない。最も重い日には101・5キロあった。3キロ程度は誤差の範囲内だ。それでも自転車に乗るだけで徐々に健康体に近づいていると感じる。新しいことに取り組んでみようという気にもなる。つらい目標を設定せず、困難ではない分量を毎日、少しずつ続けるのがコツのようだ。「イッツ・ユア・ターン・ナウ!」。次はあなたの番ですよ。【奥村隆】=次回は6月26日掲載

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