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もはや定番? マタニティーフォト 頑張るご褒美/安産祈願に

マタニティーフォトを撮影するカメラマンの風早美希さん(右)。妊婦のおなかにはベリーペイントが施されている=大阪市北区の大阪扇町マタニティフォトスタジオで、清水有香撮影

 妊娠中の姿を記念撮影する「マタニティーフォト」。海外セレブや芸能人が火付け役となり、雑誌やソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などを通して国内でも2000年代後半以降、注目を集めている。おなかに絵や文字を描く「ベリーペイント」など撮影時の演出も定番だ。人気の理由と普及の背景を探った。【清水有香】

    おなかにペイント スタジオは創意 大切な命、宿した記録に

     「おなかに手を添える感じにしましょうか」「すごくいい表情ですよ」。カメラマンの風早(かざはや)美希さん(32)が臨月を迎えた女性(27)に優しく声を掛けながらシャッターを切る。大阪市北区にある「大阪扇町マタニティフォトスタジオ(スタジオM)」。胸を覆った白いトップスに薄紫色のロングスカート姿の女性は、ベリーペイントに彩られた大きなおなかをいとおしそうに見つめ、次々にポーズを変えていく。5分ほどで撮影を終えると、「かわいくペイントしてもらって気分も上がります。携帯で早速、友達に画像を送りました」と顔をほころばせた。

     フォトスタジオ「Office SHAGA」が運営するスタジオMは10年4月、マタニティーフォト専門館としてオープン。現場スタッフは全員女性で、平日限定の貸衣装付きシンプルプラン(1万6200円)からヘアセットとメークがセットのロイヤルプラン(8万4240円)まで幅広く提案する。夫婦の参加も多く、現在は月約20組を撮影し、土日・祝日は予約待ちもあるという。「Office SHAGA」専務取締役の國松和弘さん(37)は「事業を始める前は、命の宿るおなかを人前で出すのは倫理的にどうかという戸惑いがあった」と明かすが、お客さんの笑顔を見て不安は払拭(ふっしょく)されたという。「大切な命だからこそ、例えば子育てで大変な時に写真を見て当時の気持ちにたち返ってもらえたらうれしい」

     この日、撮影に臨んだ女性は「生まれる子にも記念になれば」と、2人目の出産を前に初めてベリーペイントを行った。3児の母でもある専門アーティストの佐渡絵美さん(37)が約1時間かけて、肌用の水性絵の具で赤ちゃんの絵を描いた。周囲にあしらった桜の花は女性のリクエスト。佐渡さんは「この時間ごと思い出になるよう、リラックスできる雰囲気を大事にしています。頑張っている妊婦さんへのご褒美にもなれば」と話す。

    ベリーペイントを指導する都愛ともかさん(右)。この日は滋賀県在住の専門アーティスト、高橋志保さんが講師になるための講座を受講=東京都杉並区の日本ベリーペイント協会で、清水有香撮影

     ベリーペイントは米国歌手のマライア・キャリーさんが11年、インターネット上で写真を公開し話題になった。13年設立の「日本ベリーペイント協会」は普及活動だけでなく、専門アーティストの育成と認定事業も手がける。代表理事の都愛(とめ)ともかさん(30)によると、現在協会の認定アーティストは全国約150人。美大出身の都愛さんは08年、米国でベリーペイントに出会い、幸せそうな妊婦さんを見て「日本でも広めたい」と活動を始めた。「今では安産祈願のおまじないとして浸透しつつあるようです」

    美か卑猥か 妊娠を奨励する世相 女性巡る価値観を反映

     そもそもマタニティーフォトはどのような経緯で写真表現として成立するようになったのか。「マタニティーフォト・ウオッチャー」を自称する写真研究者の小林美香・東京国立近代美術館客員研究員(45)は成立と背景を今年1月に刊行された『<妊婦>アート論』(山崎明子・藤木直実編著、青弓社)で検証した。本書によると、マタニティーフォトの先駆けは1991年、妊娠7カ月のヌード写真でファッション誌の表紙を飾った女優のデミ・ムーアさん。自信に満ちた美しい姿に当時、称賛の声が上がる一方、妊婦のヌードは卑猥(ひわい)だと非難も多数寄せられたという。

     日本で話題になった事例としては歌手のhitomiさんの写真集(09年)をはじめ、タレントの神田うのさんが表紙を飾った女性誌「an・an」(11年)、モデルの梨花さんの写真集(同)が挙げられる。「マタニティーフォトの成立を振り返る上で、妊婦向け雑誌ではなく、ファッション誌や写真集で注目を集めたことは重要」と小林さん。「働く女性が妊娠・出産し、スリムな体形に戻って仕事に復帰するまでのストーリーを含め、メディアに登場するマタニティーフォトには女性の容姿に対する意識が表れている」と指摘する。

     さらに10年代以降、インスタグラムのような写真共有SNSの利用者が増えたことも人気に拍車を掛けた。「インスタグラムは妊活や妊娠といった個人的な経験を公開し、ユーザー同士で情報交換の場としても活用されている」。マタニティーフォトは、SNS上でつながるための妊娠体験の記録でもあるのだ。

     一方、小林さんはデジタル化に伴う写真館産業の<女性化>にも注目する。「デジタルカメラはフィルムに比べて失敗を気にせず何枚も撮影でき、撮影では演出やケアの重要性が増している。例えば子どもの記念写真では、子どもの機嫌をとれる女性スタッフが対応する。マタニティーフォトも女性が撮影することで肌をさらすことのハードルが低くなった」

     マタニティーフォトは、お宮参りや七五三のように子どもの誕生と成長の記念写真の中で、一ジャンルとして定着しつつある。近年は製薬会社の妊活関連製品や食品、不動産の広告でも妊婦のイメージが登場。社会にあふれる妊婦の表象を巡り、小林さんは懸念も示す。「妊娠は社会から強制されることではないのに、この国ではやみくもに妊娠を奨励するメッセージの圧力が強まっている気がする。女性が社会に置かれている状況や身体にまつわる価値観を反映する表現としてもマタニティーフォトは興味深い」と話した。

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