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テレビ制作会社で働く平松茂生さん。パソコンを前に打ち合わせる時間も多い

 今、がん患者の3人に1人は就労可能な年齢(20~64歳)で罹患(りかん)している。病状や治療の副作用は個人差が大きく、進行したステージ4でも働ける人は少なくない。必要なのは「自分らしく」働ける社会だ。

     「葬式で、子どもに拍手で送ってもらえるような生き方がしたい」

     腎臓がんステージ4の平松茂生さん(59)=愛知県尾張旭市=は、テレビ制作の第一線で仕事を続ける。2014年春、人間ドックで病が分かった。自覚症状はなく、「告知されても、まるで現実味がなかった」。右の腎臓を全摘。半年後、術後の治療中に肺への転移が判明した。

     ●「辞められない」

     大学卒業後、ずっとテレビマンとして生きてきた。制作会社で順調にプロデューサーへと階段を上った。55歳での告知。役職定年を迎えて給与は減ったが、長女が大学に、長男が高校に進学するタイミングと重なった。教育費に加えて治療費が肩に重くのしかかり、「仕事は絶対に辞められなかった」。

     現在、月1回の治療で約16万円を支払う。高額療養費制度で7万円ほど戻ってくるものの、負担は大きい。治療は「分子標的薬」。時期によっては強い副作用に襲われる。激しい下痢もあれば、手先の痛みでパソコンのキーをたたけなくなることもある。足の痛みがひどい時は、自宅で、はいながらトイレに行かなければならない。

     「それでも、病気になって良かったことは数え切れません」。そう話す平松さんの表情に陰りはない。周囲の気遣いや、さりげない一言。制度こそ整っていないものの、会社は平松さんの働き方に、柔軟に対応してくれた。レギュラー番組は難しいが、特別番組のプロデューサーとして今も現場で指揮を執る。「仲間に恵まれた。仕事中は、病のことは忘れて走り回っています」。肺の腫瘍は治療で小さくなり、三つ目の今の薬で1年半、病をコントロールできている。

     「病気の前より、ずっとアクティブになった」。告知されて「やることメモ」を作った。「あの店のあれが食べたい」というたわいのないものから、海外の思い出の地への家族旅行……。「項目が減っていくと、死が近づくようで怖い。でも、新たに増やせるのは喜びです」。半年後に定年を迎えるが、平松さんはその後の再雇用を希望するつもりだ。がんがわかってから、ロケット関連の特番を2本制作した。2年後の東京五輪の年には新型ロケットの打ち上げや「はやぶさ2」の帰還など、宇宙関連の取材テーマも尽きない。それまでも、その後も、走れる限りは走り続けたい。

     ●復帰渋る校長

     埼玉県在住の公立中学教諭、新井美子さん(52)=仮名=に子宮体がんの存在が分かったのは15年7月。2カ月後に手術が決まり、休職に備え、終電まで自習用のプリントを作る日々が続いた。いざ開腹すると、卵巣にも腫瘍が見つかる。多重がんだった。

     1カ月で復帰可能という診断だったが、抗がん剤治療も加わり、校長から「完全復帰でなければ周囲に迷惑がかかる」と言われ、翌年3月まで休職。何とか職場復帰を果たしたが、その年の12月、腹膜への転移が判明する。この時点でステージ4。昨年1月に再び休職し、抗がん剤治療を始めた。

     会社員の夫(55)と長男(18)の3人家族。働かなくても暮らしは成り立つが、「この仕事が大好き。人を育てるのが楽しい」と新井さん。脱毛はあるものの副作用は比較的軽く、日常生活に支障はなかった。セカンドオピニオンを求めた腫瘍内科医からも「治療しながら仕事をする人は多い。両立を目指そう」と背中を押される。しかし新たに赴任した校長は「治るまでは治療に専念したほうがいい」と復帰を渋った。だが、ステージ4は基本的に完治は望めない。このままずっと職場に戻れないのか……。

     政府の「がん対策推進基本計画」では、がん患者の就労が重点課題になっている。しかし現実には、教員といえども壁は厚い。新井さんは、がん相談支援センターや法律事務所、市教委など、あらゆる機関に相談した。結果、県の教職員組合幹部が市教委や校長と交渉してくれ、昨年8月にようやく復帰がかなった。

     ●サポート教員を

     通院以外は、今も休むことなく仕事を続けている。「周囲の協力がなければここまで来られなかった」。職員会議で、新井さんのサポートを校長が呼びかけ、同僚も何かと手を貸してくれる。仕事は定時で終わらず、帰宅は午後9時を回るが、夫が自分の仕事を持ち帰って食事の支度をするなど、家族の協力も大きい。今、新井さんが望むのは「サポート教員」だ。通院のスケジュールに合わせて授業を組んでも、薬が変われば通院の頻度も変わる。同僚にかける負担も減らしたい。出産や育児のように、時短やサポート教員の制度が整わないものか。

     現在、体の不調は感じないが、検査結果によっては薬を変える必要が出てくる。薬が尽きれば、その後は新薬を待つか治験を受けるか。

     「でも、私には使える薬がまだあと二つある。こんな体だけど、定年まで働きたい」

     ●社会に貢献したい

     乳がんステージ4の記者自身も、08年暮れの告知後、1年の休職を経て8年半、治療をしながら仕事を続けている。昨年末、骨転移の薬の副作用で大腿(だいたい)骨骨折をしたことは前回の記事(2月15日)に書いた。そしてこの4月、東京から大阪への異動が決まった。つえをついた足での引っ越しは楽ではなかったが、無事に荷造りができたのも、すべて仲間のおかげだ。

     病を得ても、人生はいや応なく続く。ゴールが一瞬でも視界に入ったからには、最後まで自分らしく、そして社会に少しでも貢献できるような生き方がしたい。ステージ4でも働きたいと思う患者の多くが、そう願っているのではないか。【三輪晴美】=随時掲載


    ネットに「ヒント集」

     厚生労働省の国民生活基礎調査(10年)を基にした推計によると、治療を続けながら働くがん患者は全国で約32万5000人。とはいえ、現状でもがんと診断されて離職したり解雇されたりする人は多い。国立がん研究センター(東京都中央区)のがんサバイバーシップ支援部では、患者の就労支援のために研究を行う。「がんと仕事のQ&A」「患者さんのための がん治療による症状で困ったときの職場での対応ヒント集」がインターネットで閲覧可能。

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