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 一人一人の名前を見ると、この人が確かに生きていたのだと感じる。遺骨や遺品が納められ、記名された無数の箱が並ぶ。

     東京の郊外、高尾山の近くに、労災認定された故人の霊を慰める「高尾みころも霊堂」が建つ。厚生労働省所管の独立行政法人が運営し、労災保険法が施行された1947年以降、25万7000人余がまつられている。

     霊堂の外にはその年に亡くなった人数が刻まれた石碑がある。「三千三百五十四名」「三千四百五名」「三千二百十名」……。

     沖縄戦の犠牲者の名前を刻む沖縄県の平和の礎(いしじ)を思い出した。だが決定的に違うのは、ここでは毎年、不慮の事故や過労死、過労自殺で数千人分が増えていくことだ。沖縄は戦場だった。働く現場もいまだに犠牲者を生み続ける戦場なのだろうか。

     今国会で働き方改革関連法案が成立する見通しだ。焦点の高度プロフェッショナル制度は、過労死の温床となる懸念が残る。「全国過労死を考える家族の会」は撤回を求め、安倍晋三首相に面談を申し入れた。しかし首相は応じようとしない。過労死の心配がない法案というのなら、直接説明すればいいではないか。

     2015年のクリスマス、過労自殺した電通社員、高橋まつりさん(当時24歳)の母が語った言葉が今も胸に刺さる。「命より大切な仕事はない」。労働行政に関わる政治家や官僚は一度、霊堂を訪れ、故人と向き合ってほしい。

          ◇

     「普通の生活が普通でなくなって、今年で23年目のあの日が来ます。(夫が亡くなった)夏の終わりの夕暮れがより一層むなしく感じるのは今も同じです」(山口県の女性)

     「9年余り毎日(息子の)帰りを待っておりますが、帰って来ません……一人で寂しく悲しい、くやしい」(宮城県の女性)

     霊堂の運営に協力する奉賛会の会報には遺族の声が寄せられる。

     年老い、体調を崩して代理の参拝を依頼する人。一方、社員を事故で失い、40年近く悔いを抱えて慰霊を続ける社長もいる。

     霊堂の展望室から都心を望めば、線路に沿って住宅街が延々と広がる。きょうもたくさんの人が電車に揺られ、働きに行く。

     電車のホームから見える霊堂は、そんな人々を遠くから見守っているようだった。(論説委員)

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