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最期の選択/1 「人工呼吸器・胃ろうやめて」 「意思表明書」が支えに 夫が残した優しさ

意思表明書(写真手前)を残した五十嵐靖夫さんの遺影を眺める妻みさ代さん=千葉県松戸市で

 一生懸命生きてきました。人生が終わるとしても決して悔いはありません。終末期で意識不明になれば、人工呼吸器はつけず、栄養補給や点滴もやめてください--。

     千葉県松戸市の五十嵐靖夫さんが生前に書き残した延命治療に関する「意思表明書」が、後に妻みさ代さん(68)を救うことになる。

     2016年10月。当時72歳だった靖夫さんはジョギング中に心筋梗塞(こうそく)で倒れ、市立総合医療センターに運ばれた。みさ代さんが駆けつけると、病気知らずだった夫の顔が別人のようにむくみ、人工呼吸器がつけられていた。心肺停止の時間が長く、低酸素脳症の影響で意識不明になった。

     「延命のことを書いたよ」。回復への希望と絶望が交錯する中、元気だった頃に何気なく口にした夫の言葉を思い出し、書斎の戸棚の引き出しから表明書を探し出した。

     お見合い結婚で、娘2人を授かった。配管の設計者だった靖夫さんは、単身赴任や出張で全国を渡り歩き、家を空けることが多かった。それでも、休日には娘をたこ揚げやスケートに連れ出し、赴任先から近況をつづった妻への手紙にも「マイ・ラブ」と添えるほど家族思いだった。

     みさ代さんの両親が営む会社を清算する際、靖夫さんは保証人として多額の負債を背負った。苦労をかけた夫の思いが込められた表明書だからこそ胸にしみた。一文字ずつ目で追うと、聞き慣れた低い声で夫が読み上げているような気がして、むせび泣いた。

     「まだ一緒にいたい」。でも、たんの吸引時に反射的に体をのけぞらせる夫が苦しんでいるように見えてしまう。夫の願いをかなえるしかないと決め、みさ代さんは自らの気持ちを抑え込んだ。

     病院の救命救急センター長を務める村田希吉さん(48)も迷った。数日で自発呼吸が戻ったからだ。胃に穴を開けて栄養を管から送る「胃ろう」などで延命させる選択もあり、すぐには結論が出せなかった。ただ、表明書には医師らへの強い思いも記されている。「医療スタッフの方には心から感謝します。申し訳ありませんが、どうか私の意思を尊重してください」。胃ろうについては「絶対しないで」と強調されていた。

     搬送10日後に改めて脳波を診たが意識が戻る可能性は低かった。延命治療の取りやめが倫理的にどこまで許されるのか基準はないが、「これほどまでにまっすぐな患者の意思と家族の思いがある」。村田さんは、みさ代さんの気持ちを受け入れた。

     治療は1日100ミリリットルの水分補給だけにとどめ、みとりに入った。やせ細る夫の手を自分の手に何度も重ね、別れを惜しんだ。穏やかな表情だった。倒れて25日後、靖夫さんは息を引き取った。

     歌謡曲が好きだった靖夫さん。「愛の終着駅」「舟唄」を葬儀で流すと、みさ代さんは何度もおえつし、あふれる涙を止められなかった。「ありがとう。私も大好きだよ」。夫が赴任先からくれたラブレターの返事を初めて書き、ひつぎに忍ばせた。

     最期の選択が正しかったのか、みさ代さんは今も分からない。でも、「人生に悔いはない」と記した夫の優しさに支えられている。【服部陽】=つづく

         ◇

     団塊の世代全員が後期高齢者となる2025年には、75歳以上が人口の2割を占める。超高齢社会に突入し、医療費や介護費も膨らむ。いかに「人生の最終段階」を迎えるか。延命治療の在り方について国も新たに指針を改定した。厳しい判断を求められる患者や家族、医師らの思いを追った。


    指示書作成8%

     終末期に望む治療方針について、自ら意思決定できなくなる場合に備え、あらかじめ示しておく方法の一つが事前指示書の作成だ。多くの国民が必要性に賛成しているが、実際に作成した人はごくわずかで、認識と行動とのずれが浮き彫りになっている。

     厚生労働省が実施した終末期医療に関する意識調査の結果(今年3月公表)では、回答した国民の66%が指示書の作成に賛成。5年前の前回調査時(69・7%)とほぼ同じ割合だった。一方、賛成した人のうち実際に作成しているのは8・1%。3・2%だった前回調査から微増したが少数にとどまっている。

     終末期医療の現場では患者が望む治療方針が分からず、家族や医師らが悩むことが少なくない。厚労省は3月に改定した指針で、患者の意思について家族や医師らと話し合った内容を文書にする重要性を初明記。事前指示書を導入する医療機関も増えている。

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