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晴レルデ

エンマの願い/26 「悲しい遺族 これ以上」

衆院厚生労働委員会室で採択されたあと、彰さんの遺影とともに悲しげな表情で傍聴席に残る寺西笑子さん(左端)ら=国会内で2018年5月25日、川田雅浩撮影

 過労自殺した夫彰さんの勤務先の和食チェーン店を相手に、民事裁判を起こした寺西笑子さん(69)。のちに「夫を自殺に追い込んだ張本人と思っていた」という当時の社長も提訴し、二つの裁判を背負った。

     「勝手に働いて勝手に死んだ」と、血も涙もないコメントをした会社も前社長も、全面的に争った。「自殺を防げなかったのは家族に問題があった」「救えなかったのは家族の責任」などと責任を転嫁し、寺西さんら家族を中傷。前社長は法廷で「私は息子に励まされてきた。彼はそんな親子関係が築けなくて残念です」と言い放った。

     裁判となると、家族はこうした攻撃にさらされ、精神的にも大きなダメージを負うことになる。寺西さんは講演で、家族の苦労をこう語る。

     「家族には立証責任があります。当事者として奔走する労力、提訴したら財政負担もばかになりません。会社は反論、否定する。心が折れそうになります」

     店長だった彰さんは過重なノルマを課され、業績が上がらないといって当時の社長に厳しく当たられ、人格攻撃までされてうつ病になった。揚げ句に左遷を宣告され、自殺に追い込まれた。

     「社長と2人の間のハラスメントなので、相手方は死人に口なし、です」

     「過労死は人災です。人ごとではありません。会社に尽くした見返りが過労自殺だったのです」

     会社を提訴してから4年後の2005年3月、全面勝訴の判決が出た。会社は控訴し、大阪高裁の裁判長が和解を勧告。和解交渉で、会社側は和解調書に盛り込む文言を、「謝罪」ではなく「哀悼の意」とすると主張した。寺西さんは「会社とはもうこれでいい」としながらも、和解の席には代理人の弁護士だけでなく、現社長を出させて文言以上の態度を見せる、つまり謝罪の言葉を述べることを条件にした。

     和解の席には彰さんのお骨を持って行った。裁判長が文言を読み上げ、「双方これでよろしいですね」と確認した。その時、寺西さんは「よくないです」と裁判長に申し立て、社長に向き直った。

     「20年働いてこんな姿になったんです。一言、声を掛けてやってください」

     現社長は涙を流し、「申し訳ありませんでした」と頭を下げて謝った。その姿を見届けて、寺西さんは「これで一区切りにしよう」と決めた。そして、彰さんに心の中で語りかけた。

     「お父さん、これでええか?」

     その後、前社長との裁判も和解が成立。彰さんの死から10年9カ月がたっていた。

    寺西彰さんの遺影に、毎朝コーヒーを供える=京都市伏見区で2017年5月、松井宏員撮影

     京都市伏見区の自宅2階の自室には、仏壇に彰さんの遺影が飾られている。遺影の前にコーヒーの入ったカップを置くのが、毎朝の日課だ。彰さんがそうしていたように、少しだけ砂糖を入れて。一緒にコーヒーを飲みながら、彰さんと話す。しんどい時もうれしい時も、こうして彰さんに相談し、喜びと悲しみを分かち合ってきた。

     ここのところ、寺西さんは「お父さんも力貸してや」「一緒にがんばって」と、祈るような気持ちで彰さんに語りかけていた。

     働き方改革関連法案がヤマ場を迎え、記者会見を開いたり、申し入れ書を書いたり、抗議活動を行ったりと、寺西さんは精力的に動いている。高所得の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」に、「死人が増える制度。これ以上、悲しい遺族を増やさないで」と激しく反対してきたのだ。

     だが、5月25日の衆院厚生労働委員会で強行採決。彰さんの遺影と一緒に傍聴した寺西さんは、しばらく席から動けなかった。そして、31日の衆院本会議で可決された。【松井宏員】

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