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最期の選択/4止 透析やめ「おうちで」 家族の絆、深めた20日

人工透析を自ら中断し、亡くなる数日前の洋子さん(手前)。夫豊さんが車椅子を押し、よく通った自宅近くの高台を訪れた=豊さん提供

 「お願いがあるんだけど。お父ちゃん、来世も一緒だよね」。鹿児島市内の病室で、高松洋子さん(当時80歳)は、見舞いに来ていた夫の豊さん(83)につぶやいた。「当たり前だろ。お前はいい女だ」。洋子さんはにっこりと笑い、自宅に帰りたいと伝えた。

 2012年9月、大腿(だいたい)骨を折って入院していた洋子さんが突然口にした言葉。豊さんは妻の覚悟を感じ取り、自宅に連れ帰った。

 慢性腎不全の洋子さんは、15年前から週3回、人工透析を続けてきた。腎機能の低下で骨がもろくなり、腰の圧迫骨折を繰り返していた。毎回4時間ほど同じ姿勢を保ちながら透析を受けることは苦痛だった。

 血管も次第に細くなり、血液を循環させる針を刺すのに2時間かかることもあった。看護師が針がうまく通るように、「おまじない」と言いながら何度も腕をさすった。

 洋子さんにとって、透析治療は限界を超えていた。自宅に戻り、慣れ親しんだ居間のソファに腰をおろした直後、豊さんと帰省中の次女(55)を前に静かに語った。

 「お父ちゃん、おうちでいいよ」。病院に戻らず、透析治療をやめるということだった。「死んでしまうよ」と言う豊さんに、「父ちゃんが良ければ私はそれでいい」とだけ答えた。最期は自宅で迎えたいと夫婦で決めていたので、多くの言葉はいらなかった。

 「透析を再開すれば持ち直すかも」と、病院に戻るよう勧める看護師に対し、豊さんは「妻の意思は固い。迷ったらいかん」と言い聞かせた。担当医は当初驚いたが、苦しむ洋子さんを間近で見てきただけに、夫婦の望みを受け入れて何度も往診して支えた。

 介護ベッドは庭が見える居間に置いた。窓を開けると、洋子さんが好きなネムノキが見える。元気だった頃、桜島を見渡せる近くの高台まで、手をつないでよく散歩した。車椅子の洋子さんを連れ出してもう一度、変わらない桜島を見つめた。「明日も来ようか」と誘うと、うれしそうにうなずく。3人の娘も顔をそろえ、髪を洗ったり、化粧をしてあげたりした。洋子さんのもとに、ともに暮らした家族がまた集まった。幸せな時間だった。

 ただ、長くは続かなかった。意識が薄れ始める洋子さんを前に、豊さんがお気に入りの唱歌「浜千鳥」をハーモニカで吹いて聞かせると、少し驚いた様子だった。

 帰宅から20日後の夜。洋子さんがベッドから頭を少し上げ、家族を1人ずつ目で追った。「みんないるよ、心配しないで」。次女が声を掛けると、穏やかな表情を見せ、間もなく息を引き取った。

 豊さんは葬儀の参列者に配った追悼文にこう記した。「最高の伴侶でした。家族水入らずで過ごした最期の時間は、私たちの絆を強く固いものにしてくれました」【服部陽】=おわり


広がる臨床倫理コンサル

 延命治療の取りやめは、主治医も悩みながら厳しい判断と向き合う。こうした医師の悩みを聞き取り、院内で一緒に解決策を探る取り組み「臨床倫理コンサルテーション(EC)」が広がっている。

 看護師や理学療法士などで構成された多職種のチームが、医師の相談内容に対して幅広い視点で助言し、医師の孤立や独断を防ぐ。ECに詳しい北里大の長尾式子准教授(医療倫理)は2004年、全国の640病院を調査。回答した267病院のうちECの導入は約25%にとどまったが、16年の別調査では約70%に急増。急速な高齢化に伴い、医師が延命治療に関する判断を迫られる機会が増えている実情が背景にある。

 名古屋第二赤十字病院(名古屋市)は15年、看護師や薬剤師ら計26人によるECチームを発足させた。17年末までに寄せられた約80件の相談のうち、延命治療取りやめの判断に関する内容が特に目立つという。同病院の野口善令(よしのり)副院長は「延命治療は正解がない。院内全体で医師の悩みを支えられれば、医療の質も向上する」と話す。

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