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藤原帰一の映画愛

レディ・バード リアルな米国青春群像 見事な脚本、演技、編集

 ティーンエージャーが主人公のコメディー。大量生産された商品みたいに聞こえるでしょうが、いえいえ、チャーミングなのに、新しい表現に出会った喜びも与えてくれる作品です。

     クリスティンは、カリフォルニアのサクラメントにある高校に通う女の子。名前はクリスティンなのに自分のことをレディ・バードと呼び、学校の掲示にもレディ・バードと書き込むくらいです。親に付けられた名前ではなく、自分で選んだ名前にしたいんですね。私は私だ、というわけです。

     でも、現実は厳しい。お父さんは失業寸前、お家(うち)にお金がないので看護師のお母さんは他の仕事も掛け持ちして何とか暮らしを支えている状態。成績だってよくないのでトップ大学は狙えません。現実はよく分かっているのに、レディ・バードはそこから抜け出したい。家のあるサクラメントに近い大学ではなく、ずっと離れたニューヨークみたいな「文化のある町」の大学に進学したいなどと言って、お母さんに叱られます。

     で、カッコをつけて、ウソをつく。お父さんに学校に送ってもらっても、学校よりちょっと手前で降ろしてもらい、みんなの目から車を隠す。立派なお屋敷が自分の家だなんて友だちに言ってしまう。私は私だと主張する一方で現実の自分から目を背け、見栄を張っちゃうんです。バカなことするもんですが、ちょっと心当たり、あるでしょう? そんな女の子の友情、恋、出会いと別れが描かれています。

     セリフが抜群。レディ・バードの話す言葉のひとつひとつがほんとにアメリカのティーンエージャーそのままなのでリアリティーがあって、しかも気が利いているので聞いているだけでクスクス笑ってしまう。現代英語の教科書にしたいような脚本です。

     その脚本と監督を担当したのが、グレタ・ガーウィグ。単独で監督した長編は初めてですが芸歴は長く、特に2012年の「フランシス・ハ」が出色でした。そこで演じたフランシスは芽の出ないダンサーなのに、カッコをつけて、見栄を張って、ウソをついて、どんどん自分を追い詰めてしまう。レディ・バードのお姉さんみたいな役ですね。観(み)ていて痛くなるほどリアリティーのある映画でした。

     そのリアリティーの背景には、映画の新しい動きがあります。10年ほど前、アメリカのインディペンデント映画のなかに、マンブルコアと呼ばれる運動が起こりました。いつもの映画のようにはっきり発音せず、ごもごも話す、そんな日常会話のスタイルを映画に持ち込んで若者の暮らしを撮るんです。グレタ・ガーウィグはその運動のなかのいわばスターみたいな人でして、「フランシス・ハ」でも主演に加えて脚本も共同執筆していたんですが、今回は自分で脚本と監督を担当したわけです。

     お話の基軸は、母と娘の関係です。お母さんはしっかり者で、娘と性格がそっくりで、娘が大切だからこそ、いつも小言を言ってしまう。お金がないのにニューヨークの大学なんて何を考えているの、なんて具合です。レディ・バードはお母さんに押しつけられるのがイヤなので、やはりぶつかっちゃうわけですね。受け取り方は人によって違うでしょう。アメリカの大学はとんでもなく学費が高いですし、年齢のせいで私は親の気持ちになっちゃいますが、レディ・バードに感情移入して観ることもできる映画です。

     でも、どちらに感情移入するかなんてことを忘れて映画の作り方に注目すれば、これほどよく練られた脚本、作為を感じさせない演技、そして画像と編集に満たされた映画は珍しいことがおわかりになるでしょう。後になればなるほど良くなるので、1時間半で終わるのが惜しくなる作品でした。(東京大教授)

           ◇

     次回は「30年後の同窓会」です。

    ■監督 グレタ・ガーウィグ

    ■出演 シアーシャ・ローナン/ローリー・メトカーフ/トレイシー・レッツ/ルーカス・ヘッジズ

    ■94分、アメリカ

    ■東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪・TOHOシネマズ梅田ほかで公開中

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