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波のまにまに

彼を待ちましょうよ=戸田栄

 「Nさんから今日、電話のSOSがきて、若い連中が病院へ連れて行った。自宅で動けんようになってたんや。大の病院嫌いやったから、入院したけど一安心やわ」

     先週、大阪市浪速区で地域の世話役をしている知人と会った時のこと。私もNさんを知っている。74歳の世話焼きの女性だが、その半月ほど前に見かけ、体重が半分になったような姿に驚いた。「どうしたん?」と声を掛けたら逃げてしまい、気になっていた。

     一緒に近くの居酒屋へ行くと、現場帰りに急いできたという、服がペンキだらけの若者が知人を待っていた。開口一番、「Nさん大丈夫ですかね」と聞く。

     入院したと知り、「よかったです。昨日、道端で見かけ、あんまり調子悪そうやから家まで送ると声を掛けたんやけど、タクシー止めてと言うから、それだけにしたんです。去り際に『もうあかん』と言わはって。耳に残って、夜はよう眠れんかったんです」。

     なにわ人情というべきか。聞いてみれば、ちょっとした顔見知りに過ぎない。この街の一員らしく、Nさんも人情家なのだが。

     私はNさんに借りがある。4年前、東日本大震災で被災し大阪へ避難していた20代の男性を取材した。防災向けに体験を話す講演謝礼などを収入としていたが、震災後3年で依頼は減っていた。復興に尽くしたいと就職せず、当時は募金による復興住宅建設を目指していた。しかし、私はその計画が大き過ぎると危ぶんだ。中途半端にお金を集めるのはまずい。

     先の知人にそんな話をしたら、「連れてきたら」と言った。男性には福島県で学習塾経営の経験がある。地域の空き事務所を当面は無料で貸すから、塾を開けばいいという。彼も生活再建を優先することに同意し、募金は中止になった。開校後、Nさんは「みんなで助けな」と地域を回って生徒を集めるなど大いに世話を焼いた。

     残念ながら塾は評判が上がらず、2年ほどで閉校。男性は礼も言わずに去った。人間として未熟な面があった。私は責任を感じて謝りに行ったが、Nさんは「そんなん違う。うまく助けられんかったのが悔しい」と言ってくれた。

     入院前も「塾が生徒でいっぱいの夢を見た」と知人に話したらしい。「元気を回復し、彼が成長して顔を見せにくるのを待ちましょうよ、Nさん」(編集委員)=次回は7月2日

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