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「ラマダンお買い得商品ヒヨコマメ」と書かれたスーパーの値札(中央)。断食明けの食事のために、この時期は人々がたくさんものを買います

 フランス北部・ノルマンディー地方にあるルーアンという町に、フランス語習得のため今年の4月から留学しています。フランス語はほぼゼロからのスタート。新聞記者の仕事を離れ、留学生の目で見て気になったことをあれこれ日記風につづっています。

 イスラム教の人たちにとって神聖な期間とされるラマダンが、先月から始まっています。この月の間は日中、断食をすることが知られています。フランスは人口の約1割がイスラム教徒。私の住むルーアンでも、ラマダンらしい光景を目にします。

 夕暮れにはまだ早い午後6時ごろ。散歩していると行列が現れました。店の中をのぞき込むとアラブ風菓子やパンが並び、押すな押すなの盛況。輸入食材スーパーに入ってみると「ラマダン売り出し」「ラマダンおめでとう」と書かれた値札やポスターが貼られ、レジの前にまた行列。いずこも日没とともに解禁となる食事の買い出しにやってきた人たちです。ルーアンでは日曜日は休業という店がほとんどですが、アラブ人の店はたいてい元気に営業中。イスラム教の国の一つで西アジアのイランに留学していた大学生の頃、目にしたにぎわいを思い出します。

日没後の食事で大事な「食べる順序」

 断食中だというモロッコ出身の友人が夕食に招いてくれました。

 フランスは今、日の出は午前6時前で日の入りが午後9時半過ぎです。イスラムの暦は太陰暦なので、ラマダンを迎える時期は毎年少しずつずれます。夏至に近い今の時期、しかも緯度の高い欧州でラマダンを迎えるのは大変なこと。ルーアンに住む彼女なら15時間以上、何も食べないことになります。

 アラビア語のラジオをかけ、テーブルについて「その時」を待ちます。コーランの朗唱が響くと、「いただきます」の合図。それを耳にしながら友人は、まず私にナツメヤシの実をすすめてくれました。すさまじい空腹を抱えているはずなのに、なんという気遣い!それから神様への感謝を意味する言葉を述べつつ、ナツメヤシの実をやおら口にしました。干し柿に似た食感で、それよりずっと甘いナツメヤシの実。そういえば、日没後の食事で最初に羊肉にかぶりつくような人を見たことがありません。まずナツメヤシの実か、コップ1杯の水を飲み干してから、という人がほとんど。からっぽの胃袋をいたわるためにも、食べる順番は大事です。

モロッコのクレープ「ムセンメン」。これはキイチゴとプルーンのジャムがけで、朝ご飯用。同じ生地の中にひき肉の具が入ると晩ご飯用になる

 この日、友人が用意してくれたのはムセンメンというモロッコのクレープでした。油を塗ってテッカテカにした手で生地を四角くのばし、パタパタと裏返しながらホットプレートで焼いてくれました。生地の中には、とりのひき肉とタマネギをスパイスで炒めた具。焼き目の香ばしさを感じながら、肉のうまみがしみた生地をほおばります。ぼんやりと私の頭に浮かんだのは、焼きギョウザ。フランスのイスラム教徒のお宅でギョウザ気分を味わえるなんて不思議なものです。セモリナ粉を練った生地には弾力があり、おなかを効率よく満たしてくれました。

断食中でも子供の食事は用意するから

 ところで、イスラム教徒がいくら多いといってもここはフランス。職場に行けば同僚らがいつも通りに弁当を広げます。街中を歩けば太陽の下で人々がビールやシトロンプレッセ(レモンの搾り汁を水で割った冷たい飲み物)で渇いたのどをうるおしています。メトロに乗れば学生がチョコレートバーにかぶりついています。スマートフォンを開けば誰かのご飯写真が目に入らないとも限りません。

 「サミラ! 私たちが昼を横で食べていて、不快になりませんか?」

 語学学校の先生でモロッコ生まれのサミラ(留学日記の1回目でご紹介した先生)も、今は断食中。率直な気持ちを尋ねました。国民の多数がイスラム教徒のモロッコでは、ラマダンになれば、ほとんどの大人が断食をしています。「みんながやっているから、つらくてもがんばれる」という環境は確かにあるそうです。私がイランにいた頃、「断食をしていないからいらない」と遠慮したのに、「いいからどうぞ! みんなに配っているから」と言って近所の人が日没後に料理を差し入れてくれたことを思い出しました。町の雰囲気も変わります。

 サミラは「やっぱり、フランスで断食はつらい。こっちに来たばかりのころは他の人が気になって仕方なかった」と教えてくれました。「でも、今はもう慣れました。だって、私は断食中でもいつも通り子供には食事を作っているから!」全然たいしたことじゃないよ、と言いたげに大笑いしていました。

 イスラム教徒でも成長段階の子供は断食しないそうです。学校へ行く子供たちのために食事を普段通りに用意し、自分は味見を我慢しつつ、子供が食べる姿を見てきました。だから自分だけが日没後まで待つことも苦にならなくなったそうです。「最近は一番上の子が断食するようになりました」とうれしそうに話していました。家族で仲間が1人増えた、という感覚でしょうか。「でも、子供たちに『同じようにやりなさい』と教えるつもりはありません。断食をすることは私の信条の上での選択だから」

故郷とのつながり思う苦行

 今年のラマダンは6月中旬まで続きます。検索サイトで「フランス ラマダン」と入力したらテロ関連の記事や注意喚起が多く出てきます。ラマダン直前の5月12日、パリの中心部でイスラム過激派によるテロの可能性が疑われる襲撃事件が起き、市民が犠牲になりました。テロ発生に備え高い警戒が維持されていることも現実です。

 そんな異郷でなぜイスラムの慣習を続けているのか。サミラに尋ねたら、「わたしはモロッコ人だから」と言っていました。無料通信アプリの登場で、遠く離れた家族を劇的に近くに感じることができるようになりました。留学生にも必携で、「WhatsAppで母と長電話するよ。いつも泣かれるからつらい」と言うのはコロンビア人のアストリッド。先日、「LINE」の通話機能を人生で初めて使った私の祖母(91)は、そのクリアな音声に「あんたが隣におるみたいやわ」と驚嘆していました。でも、寂しさは電話だけで補えるものではありません。サミラにとって断食をして祈るラマダンは、故郷と心理的につながり続けるためのもう一つの大切な機会なのだと思いました。【久野華代】

久野華代

1983年三重県生まれ。東京外国語大学を卒業後、2006年に毎日新聞に入り北海道や東京で記者として働いた。日当たりの良いテーブルか、あたたかい布団で本を読むことが好き。寒い部屋ならルイボス茶をいれる。山菜採りも好き。

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