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たしなみの文化考

/13 DJ・タレント 谷口キヨコさんの哲学

 <くらしナビ・カルチャー>

    「対話とは」刺激的な冒険 「生きる意味って?」大学院入学 実のある言葉を伝えるために

     「関西ラジオ界の女王」の異名をとるDJ・タレントの谷口キヨコさん。愛らしい声でハイテンションな話を繰り広げ、“キヨピー”の愛称で親しまれているが、本業からはうかがいしれない一面も持つ。日本を代表する哲学者の鷲田清一さん(現京都市立芸術大学長)に師事すること4年、修士論文を書き上げ、今年3月に大学院を修了した。人気DJが二足のわらじを履いて、内なる問いをじっくりと深めた4年間を聞いた。

     さっそうとエフエム京都(京都市下京区)のスタジオに現れた谷口さん。「昨日はカラオケ行って、ヒデキを歌いました」と語り出す。ヒデキこと西城秀樹さんの訃報に触れ、しんみりとしながらもどこかくだけた彼女のトークは周囲を引き込む。

     谷口さんが大谷大学大学院文学研究科哲学専攻に入学したのは2014年4月。50歳代を迎えようとしていた当時「生きるとは? 死ぬとは? とか、もやーんとした疑問があった」。知り合いが突然病気で亡くなるなどの出来事もあった。「やりたいことを思うままにやってきたけど、形になるものは何もない。自分が生きる意味って何なんやろう。このままでは答えは出えへんかも。もしかしたら哲学を勉強したらわかるかな」。そんな思いが高まり、著作を愛読していた鷲田さんが大阪大学長を退任後、谷口さんが住む京都市内の大谷大学に移ったことも知り、門をたたいた。

     かくして“鷲田門下生”となった谷口さん。仕事の傍ら週に1、2回大学に通い、哲学の基礎から学び直し、原書にあたれるように初めてドイツ語も学んだ。「哲学をやりたい」という意思は明確だったが、具体的な題材はぼんやりしており、まずはギリシャ哲学のプラトンや河合隼雄さんの著作などをむさぼり読んだ。そして、3年目にたどり着いた研究テーマは「対話は人間にとってどういう出来事なのか」ということだった。

     「私は人と話す仕事が大好きで、それが生きていくことなんやなと改めて思った」。1人で考えていた時には見つからなかった言葉が会話することで発見できたり、思わぬ言葉が口をついて出たり……。普段感じる会話の魅力からわき上がった問いと向き合った。題材はオーストリアで生まれたユダヤ人宗教哲学者マルティン・ブーバー(1878~1965年)の「我と汝(なんじ)」(1923年)。対話についての古典であるこの書は抽象的で難解だ。出版されている二つの日本語訳を読み比べ、時にはドイツ語の原典を調べたり、研究者に見解を聞きに行ったりとどっぷりブーバーの世界に入った。「寝ていても、その世界にいるような不思議な感覚でした」

     途中で投げ出したくもなったが「働いているからこそ、外から自分を見る感じでちょっとおもしろかった」と本業とは別の時間を楽しむ余裕も持てた。考え続けて、行き着いたのは「対話の成立を通してこそ私は私になれる」という答えだった。

     哲学を志したのは真剣に「考えること」に取り組みたかったからでもあるという。だが、私たちは疑問があっても、多忙な日々に流されて思索を諦めてしまうことも多い。どうして谷口さんは立ち止まることができたのか? 記者が尋ねると「それはオンエアでモノを言うからです」ときっぱり。「いいかげんなことは言えないでしょ。知らなかったでは済まされない。いろんなやり方があるけど、大学で勉強することが一つの形だった」。向学心には言葉に最大の配慮をするプロの覚悟がにじむ。

     今でも大学院に顔を出し、哲学カフェにも参加する。考える行為が体に染み込んだDJキヨピーはどう違うのか。「私独自の解釈で映画紹介などできればいいな。アーティストの方たちとの対話も重ねていきたい」と瞳を輝かせた。【野口由紀】=次回は7月3日

    学究肌の一面 語学留学、大学客員教授も

     現在、レギュラー番組は8本。エフエム大阪「LOVE FLAP」(谷口さん担当は月・火曜午前11時半~午後3時51分)、エフエム京都「CHUMMY TRAIN」(金曜午後4時~午後8時)、「J-AC TOP40」(土曜午後2時~午後7時)など長寿番組が多い。オンエアでは水を得た魚のように軽快なトークを繰り広げ、「一日でも長くこの仕事をしていたい」としみじみと語る。

     「何事も没頭するタイプ」(マネジャー)で、10年ほど前から学究肌の一面が表れてきた。2006年、韓国の大学に1カ月語学留学。番組でスタジオに招いたK-POPのゲストと韓国語でやりとりができるほど堪能だ。08年には母校の京都産業大の大学院に社会人入学し、国際法を専攻。国連安全保障理事会をテーマに修士論文を書き上げた。今年4月、京産大現代社会学部の客員教授に就任し、春・秋学期各1回の授業を担当し、メディアに関心を持つ学生に自身の経験を語る。


     ■人物略歴

    たにぐち・きよこ

     兵庫県宝塚市出身。京都市在住。大学卒業後、会社員を経て、知人の紹介でDJ・タレントになった。関西のテレビ・ラジオを中心に活躍する。

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