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「EUがストロー禁止」の裏を読む

プラスチック製のストロー。プラスチックごみ削減に向けた規制案にはEUのしたたかな戦略ものぞく=AP

 欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会が5月28日、ストローや綿棒などの一部の使い捨てプラスチック製品の流通を禁止する新たな規制案を加盟国に提示した。プラスチックごみ削減に向けた欧州の熱心な取り組みの背景には、深刻な海洋汚染のほか先進諸国の「ごみ捨て場」として機能してきた中国の廃プラスチック輸入禁止が背景にあることは本欄で紹介した通りだ(「使い捨ての包装は全廃へ 欧州のプラスチックごみ対策最新事情」

 しかし今回の規制案の裏には別の重要な要素がある。それは規制対象となる製品の多くはEU内で生産されていない点だ。域内産業への影響を最小限に抑えながら世界の環境規制の主導的立場を演出するEUのしたたかな戦略がのぞく。

食器、綿棒からスナック菓子の袋まで

 今回の規制案が対象とするのは10種の製品と釣り用品。これらすべてを禁止するのではなく、代替素材の有無などを考慮して製品別に異なる規制を定めている。主な対象製品と規制の内容は次の通りだ。

【流通を禁止して他の代替素材に切り替える】

食器類(スプーン、ナイフ、フォーク、皿、ストロー、マドラー)、軸にプラスチックを使う綿棒、風船をつける棒

【大幅削減に向け、加盟国に数値目標の設定や有料化などの対策を課す】

食品容器、飲料カップ

【生産者に廃棄物管理や海の清掃費用などの一部を負担させる】

食品容器、飲料カップ、スナック菓子などの袋、あめなどの小袋、たばこのフィルター、釣り用品、レジ袋(筆者注:レジ袋は既に多くの加盟国で有料化などの対策を実施済み)

【2025年までに90%の回収率達成を義務づける】

ペットボトル

 欧州委の説明によると、これらの対象製品だけで欧州の海岸に打ち上げられるごみの7割を占めている。普段はEUの環境政策に厳しい目を向けている複数の環境NGOも、今回の提案にはおおむね好意的な反応を寄せた。それほど野心的かつ海洋ごみ削減に大きな効果が期待できるということだろう。

 一方、業界団体の「プラスチック・ヨーロッパ」は、海洋ごみの削減を目指す規制案の趣旨には賛同しながらも「プラスチック製品の禁止は解決策ではない」と反論する声明を発表。代わりに廃棄物管理インフラの向上に注力すべきだと訴えるが、規制案の基本方針が覆る見込みはなさそうだ。

ストローなど一部の使い捨てプラスチック製品の流通を禁止する新規制案を発表したEU欧州委員会のティメルマンス第1副委員長(中央)=ブリュッセルで2018年5月28日、八田浩輔撮影

禁止対象の大部分はEU域外で生産される輸入品

 欧州委は策定にあたって環境や経済への影響を詳細に評価していた。成果は77ページの報告書として規制案と同じタイミングで公表された。

 それによると、世界のプラスチック製品のうち欧州での生産は2割にとどかず、半分はアジアが占める。また流通禁止の対象になる食器類や綿棒の大部分は中国、インド、台湾などアジアと米国から欧州に輸入されている。規制が実施された場合、製造業者の売上高は年20億~50億ユーロ(2560億~6400億円)の減少が見込まれるが、「市場規模と比べると大きくなく、これらの大部分はEUの外で生産されている」と分析した。

 欧州委が規制案を発表した記者会見では、雇用喪失を含む欧州のプラスチック業界への影響評価についての質問も飛んだ。規制担当の閣僚に相当するティメルマンス第1副委員長は影響が生じることは認めつつ、消費者にとっては年65億ユーロ(8320億円)の節約になると述べ、「(業界が被る)コストは社会が得る便益に対して非常に小さなものだ」と強調した。欧州委は30年までに220億ユーロ(2兆8160億円)に相当する環境破壊のコストを回避することができるとみている。

 規制案が適用されるには加盟国と欧州議会の承認が必要になる。これまでのところ加盟国から大きな反対の声は聞こえてこない。欧州委は欧州議会選挙がある来年5月末までの承認を目指しており、それから各加盟国が2年程度で国内法を整備する流れとなる。罰則を設けるかどうかはそれぞれの加盟国の判断に委ねられるという。

巨大市場を背景にした規制で欧州企業の競争力向上狙う

 EUの厳しい環境規制は域外にも大きな影響を与える。

 人口5億人の巨大市場向けに製品を供給する生産者の競争条件を変えるEUの規制は、世界標準として定着する。EUの狙いは、他の国や地域に先がけてルール作りを主導することで得る「先行者利益」を確保し、自らが重視する地球環境に対する価値観を域外に広めることだ。今回の件で欧州委はプラスチックを使わない代替製品の開発や再利用の新たなシステムに先行して取り組む欧州企業のグローバル市場での競争力を引き上げる意図もある。

英国のプラスチックごみ対策を主導するゴーブ環境相は、トゥスクEU大統領が投稿した写真にすかさず反応して「EU大統領、なぜペットボトルが?」とコメント付きのツイート=ゴーブ氏のツイッターアカウントより

 だがEUにも世界のリーダーの座を争うライバルがいる。19年3月末にEUを離脱する英国だ。

 英国は今年1月、不要なプラスチックごみを42年までにゼロにする政策方針を発表。4月にはEUに先がけてストローなど使い捨てプラスチック製品の販売を将来的に禁止すると表明した。主導するゴーブ環境相は、EU離脱を決めた国民投票(16年6月)で離脱キャンペーンの中心的な役割を果たし、EUとは浅からぬ縁がある政治家だ。

 ゴーブ氏は英メディアやツイッターを通じてEUのプラスチック対策は遅いと重ねて批判している。2月にはペットボトルの水が置かれた机でミーティングする様子をツイッターに投稿したトゥスク欧州理事会常任議長(EU大統領)に対し、コメント付きツイートでかみついた。「EU大統領、なぜペットボトルが? 環境を損なう悪い慣習を見限るために我々と手を組むべきだ」

 一方、EU側は英国では関連法制の整備に見通しがたっていないと反論する。離脱交渉の場外戦として、プラスチックごみ対策を我先にと競う様子を英紙テレグラフなどは「ストロー戦争」に例える。

 「欧州は世界の海洋ごみの最大の発生源ではないが、問題の解決に向けて最も貢献することができる。これは海洋ごみに取り組む世界で最も野心的で包括的な法制度の提案だ。我々が先頭に立たなければいけない」

 欧州委のティメルマンス氏はEUがプラスチックごみ対策で世界を主導する姿勢を改めてアピールし、ゴーブ氏を名指しして挑発した。

 「頂点への競争だ。誰が一番か確かめようじゃないか」

【八田浩輔】

八田浩輔

ブリュッセル支局 2004年入社。京都支局、科学環境部、外信部などを経て16年春から現職。欧州連合(EU)を中心に欧州の政治や安全保障を担当している。エネルギー問題、生命科学と社会の関係も取材テーマで、これまでに科学ジャーナリスト賞、日本医学ジャーナリスト協会賞を受賞(ともに13年)。共著に「偽りの薬」(毎日新聞社)。Twitter:@kskhatta

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