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木村蒹葭堂邸跡の碑=大阪市西区北堀江4で、松井宏員撮影

 ◆大阪市西区

    気前よかった「聞人」

     高台橋(たかきやばし)公園を歩きながら、大阪案内人の西俣稔さんが「ビルが公園に背中を向けてるでしょ。ここが堀江川やった名残です」。西へと歩き、あみだ池筋を渡ると、車道が盛り上がっているのが分かる。堀江川の堤防跡がくっきり残っているのだ。

     さらに新なにわ筋を渡って、大阪市立中央図書館前にやって来た。西俣さんの目当ては「木村蒹葭堂(けんかどう)邸跡」の碑だ。博学多才で聞こえた当時の大坂を代表する町人学者で、書物や書画、美術品、動植物の標本など、さまざまな珍品を収集したコレクターでもあった。

     学者といえば偏屈かと思いきや、気前よく閲覧させ、あまつさえ貸し出しまでしていた。「図書館と美術館を兼ねていたようなところ。ここに中央図書館があるのは歴史の輪廻(りんね)やね」

    木村蒹葭堂邸跡の碑(大阪市西区北堀江4)

     もっとも、正確にいうと蒹葭堂邸はここからもう少し西、堀江川に架かる瓶(かめ)橋北詰の造り酒屋だった。自邸の庭に井戸を掘ったところ、古い葦(あし)の根が出た。これが古歌に詠まれた浪速の葦かと喜び、葦を意味する蒹葭を号した。

     幼い頃から絵画や文学に親しみ、長ずるに及んで本草学(薬学)や蘭学も極めた。そう聞くと「商売はそっちのけで学問に没頭した道楽者」をイメージしてしまうが、さにあらず。家業に精を出した筋金入りの商人だったのである。

     大阪大総合学術博物館教授の橋爪節也さんによると、「浪華郷友録」という人名録に「聞人(ぶんじん)」として名前が出てくる。聞人とは聞き慣れない言葉だが、「本業のいとまに文学や芸術に遊ぶ、世に聞こえた人」という意味だそうだ。「蒹葭堂が人の話を聞く人だったというイメージが浮かんできます。肖像画も耳が大きいし」と橋爪さんは言う。「聞人は京都の人名録にはない項目で、学者ではない。本業の商売をやりながら学問をした、本当の意味の町人学者で、非常に大阪的ですね」

     さらに、和漢洋のさまざまな珍品を買い集め、このコレクションを公開したから、文人、学者、商人から大名、外国人、外交官まで千客万来。まさにサロンの様相を呈した。蒹葭堂は日記に来客をいちいち記しており、20年分の日記から来客を数えたら9万人を超えるという(「大阪堀江今昔」)。東京ドーム2杯分だ!

     見せるだけでなく、気前よく貸し出しもした。親しい人が金を借りに来た時、収集物を貸して「お代を取って人に見せたらもうかるでしょう」と勧めたら、本当にもうかったという話も伝わる。

     橋爪さんは、天明5(1785)年4月23日の「夜、道頓堀」の記述に着目した。いったい何をしに行ったのか? 

     この月、道頓堀に近い難波新地で、舶来品を集めた見せ物が開かれていた。日記によると、この見せ物の主催者が度々訪ねてきており、蒹葭堂はコレクションを貸し出していたとみられる。ところがこの夜、道頓堀の角座から出火して大火事になった。「あわてて所蔵品を確認するか、回収するためにとんでいったのではないか」と橋爪さんは推測する。そう考えると、超然としているように見える蒹葭堂の、人間くさい一面が垣間見えるようである。

    木村蒹葭堂の肖像画が添えられた説明版=大阪西区北堀江4で、松井宏員撮影

     石碑の傍らの説明版には、江戸画壇の重鎮、谷文晁(ぶんちょう)が蒹葭堂の死後、家族に頼まれて描いたという肖像画が添えてある。口を開いた蒹葭堂は、話に夢中のようである。寛政8(1796)年7月28日、江戸から下ってきた文晁と「終日談話」とある。この肖像画についても、橋爪さんは日記からこう読み解く。

     「蒹葭堂は機嫌良く大川で船遊びをしたんですが、肖像画はたぶん、この時のしゃべっているスケッチをもとに描いたんだと思う」

     聞き上手で話し好き。サロンの中心にいた蒹葭堂の人柄をよく伝えている。【松井宏員】(次回は23日に掲載予定)

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