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創作の原点

映画カメラマン・監督 木村大作さん 現場で学んだ黒澤イズム

=東京都千代田区の東宝本社で、根岸基弘撮影

 かつてのスタジオシステムの中で育った残り少ない映画カメラマンであり、映画監督でもある木村大作さん(78)は「散り椿」(9月28日全国公開)で、自身3度目の監督に挑んだ。葉室麟さんの時代小説を原作とした今作では、岡田准一さん演じる剣豪らによる殺陣のシーンなどに、若かりし頃に撮影助手として仕えた黒澤明監督の映画づくりの神髄を込めた。

     東宝に撮影助手として入社してすぐに、黒澤監督の「隠し砦の三悪人」(1958年)の撮影現場に放り込まれた。「たたずまいに迫力があって、ただただ怖かった」と振り返る。以来、「用心棒」(61年)、「椿三十郎」(62年)など数々の現場で助手を務めた。「それで人生が変わった。本物の映画づくりをやっていたから、とにかくじっと見ていた。それが今、すごく役に立っている。監督する時も『黒澤さんならどうするかな』と考える。そうするとアイデアがふっと湧いてくるんだ」

     最新作「散り椿」でも殺陣のシーンで、黒澤イズムをふんだんに取り入れている。岡田さん演じる剣豪の瓜生新兵衛の敵討ちの場面では、刀で侍を斬る音が鋭く響き、斬られた侍の血しぶきが舞って新兵衛の顔を赤く染める。

     同じく黒澤監督作品では、「用心棒」で人を斬る音が入り、「椿三十郎」では血しぶきが飛んだ。どちらも当時の映画界で初めての試みであり、世界の映画ファンを魅了した。「僕はその2本とも撮影についていた。時代劇をやるなら、黒澤さんに何とか近づきたい思いがある」と話す。ワンカット(中断なし)で撮ったという殺陣のシーンは、「現在の俳優陣の中で飛び抜けている」と評する岡田さんの技術も生きて、往年の名作と並ぶ迫力だ。

     工業高校を卒業して、「就職するため」に入った映画界。「背が高く、はきはきしていたから撮影助手になった」と話す通り、歯に衣(きぬ)着せぬ発言で物議を醸してきたが、一本気な性格は皆に慕われてきた。そうした性格は今作の創作の原点ともなった。

     「今の時代の価値観は自分に合わない。合うのは、江戸時代より前。戦国時代に生まれたら、ひとかどの武将になっていたよ」と笑う。葉室さんの小説「散り椿」を読んだ時、江戸期の剣豪たちが、命を賭して大切な人を守ろうとする生き様にひかれた。「江戸時代の人々にあるのは、いざ、何かがあれば切腹するという『覚悟』だね。俺も『覚悟』を持って撮影現場に臨んでいる。それでいろいろ言うから煙たがられるんだけど仕方ない」

     もう一つ、同作で引きつけられたのは、美しい姉妹を巡る剣豪たちの純粋な「愛」が描かれていること。「時代劇で、愛や女性を前面に出した映画はあまりない。それを作ってみたいと思った」と話す。

     富山県を中心としたロケーション撮影にもこだわった。北陸は初監督作品の「劔岳 点の記」や「追憶」でも撮影し、ゆかりのある土地。撮影した同県上市町にある長い並木道や富山市の旧家「内山邸」、高岡市の「国泰寺」などは「10年ぐらい前から温めてきた場所。本物の場所で撮影したいからね」と語る。

     終盤には、自身の映画人生を凝縮したセリフを盛り込んだ。「大切なものに出会えれば、それだけで幸せです」--。「人でも、物でもいい。俺にとっては、黒澤明、高倉健、降旗康男。その人たちに出会ったから今の自分がある」

     降旗監督とタッグを組み、高倉さんの背中を撮った「夜叉」や「駅 STATION」といった作品は映画ファンに今も強烈な印象を残す。「高倉さんという人は後ろ姿で背負ってきたものを表せる人だった。生きることの悲しみ。だから夢中で撮ったよ」と振り返る。

     今、高倉さんの影を見るという岡田さんを主役に据えた「散り椿」は、敵討ちや殺陣といった時代劇の王道に愛という新しい要素を加えた作品となった。「常々、映画はヒットさせなきゃいけないと思っているけど、この映画は若い人や海外の人にも楽しんでもらえる作品になったと思う」と力強く語った。【木村光則】=次回は7月14日掲載


     ◆略年譜

    きむら・だいさく

    1939年 東京生まれ

      58年 東宝撮影部に撮影助手として入社。黒澤明監督の下で助手を務める

      73年 「野獣狩り」で初めて撮影監督を務める

      81年 「駅 STATION」で毎日映画コンクール撮影賞

    2009年 「劔岳 点の記」で初めて映画を監督する。同コンクール日本映画優秀賞

      14年 「春を背負って」で2度目の映画監督

      17年 「追憶」を撮影

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