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いただきます

平壌冷麺×神戸・長田 4代つなぐ祖国の味

イラスト 佐々木 悟郎
3代で協力して冷麺を作る金栄善さん(左)、張守基さん(中央)の一家

 韓国と北朝鮮の南北首脳会談が行われた4月27日。神戸市灘区の張守基(チャンスギ)さん(36)はこの歴史的瞬間を見逃すまいとスマートフォンの実況中継に目を凝らしながら電車で職場に向かっていた。

     冒頭、北朝鮮側からこんな一言が飛び出す。「平壌から苦労して冷麺を持ってきました」。思わず笑みがこぼれた。自身は同市長田区の「元祖平壌冷麺屋 本店」4代目。1939年に曽祖父母が日本初の専門店を開き、朝鮮半島がひとつだったころから伝わる味を一家で守り継いできた。

     曽祖父は幼いころ、平壌の冷麺屋で小僧をしていた。半島が日本統治下の29年、長田に渡り、地場産業のケミカルシューズ製造に従事。曽祖母は労働者の宿舎を営み、半島出身者が集った。「ほんまの味」を知る人らに頼まれ、曽祖父が麺を打ち、曽祖母がスープを作って店が始まった。

     麺は伸びないよう、注文を受けてから打つ。そば粉やデンプンに熱湯を注いでこね、穴の開いた筒からところてんのように押し出してゆでる。透き通ったスープは、大根や白菜を塩で漬けた「水(ムル)キムチ」の汁と、肉のだしを合わせたもの。薄切り肉やゆで卵、水キムチを乗せて完成だ。

     店は時代の荒波を何度も乗り越えてきた。50年に始まった朝鮮戦争で半島は分断され、平壌の親族と音信が途絶えた。95年の阪神大震災では一帯がドミノ倒しとなり、店を失った。避難所で冷麺をゆでて配り、9年後に再建した。

     日朝関係は手の届かないところにあり、やるせない思いを抱えてきた。けれど、この南北会談で空気が変わったと感じた。韓国の平壌冷麺店に行列ができ、長田でも同じことが起きた。「僕が生きているうちに、こんなに南北が近づくなんて」。12日には世界が注目する米朝首脳会談もあり、祈るような気持ちで日々のニュースを見守る。

     近くで靴店を営む中村洋人さん(87)は50年前からの常連だ。シューズ工場で汗水垂らして働いていたころ、洗面器のような特大サイズの冷麺を食べた。「国は国、人は人。それに冷麺はうまいしな」

     張さんの祖母、金栄善(キムヨンソン)さん(88)の靴を見立てたこともある。5男1女を育て上げ、今も現役の働き者。膝が痛くならないように中敷きの調整にこだわった。今も毎日店に立つ姿を尊敬している。

     一族は各地で同じ看板を掲げ、守り続けた祖国の味を伝える。金さんは感謝する。「日本に来ても冷麺のおかげで家族が一つでいられた」。本店では今日も金さんが客を迎え、4代目が麺を打つ。店の歩みは80年目を迎えた。【奥山はるな】<イラスト 佐々木悟郎>

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