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藤原帰一の映画愛

30年後の同窓会 ベトナム戦争の戦友3人、やるせない「残酷な運命」

 アメリカ映画にはいい季節です。ポール・トーマス・アンダーソン、ウェス・アンダーソンに続いて、今度はリチャード・リンクレイターの新作。この人の映画は作為を感じさせないので、誰が出てきても、あ、この人知ってるという気持ちになってしまう。「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)」、「6才のボクが、大人になるまで。」、どちらも一度見たら忘れられない作品です。

     最初の場面は、うらぶれた酒場。そこにやってきた寡黙な男ラリー・シェパード、通称ドクは、バーテンダーに向かって、僕を覚えているかと問いかけます。バーテンのサル・ニーロン、最初は怪訝(けげん)そうですが、誰か気がつくと、なんだドク、おまえどうしてたんだなんて大げさなリアクション。ベトナム戦争で一緒だったんですね。

     一晩飲み明かした後、ドクは行きたいところがあるとサルを誘います。しばらく運転して、行き着いたところは教会。そこの牧師リチャード・ミューラーも戦友だったんです。

     30年も会うことはなかったのになぜ来たのか、ドクは真相を明かします。ドクの息子ラリーJr.がイラク戦争で死んだという通知を受けた。既に妻は亡くなったので、つきそう人がいない。ついては息子の葬式に2人で来てくれないかと言うんです。サルはすぐ賛成、ミューラーは最初断りますが、牧師なんでしょと奥さんに背中を押され、同行に同意します。初老の3人、ドク、サル、ミューラーの旅行がこうしてはじまります。

     ポイントは、キャラクターの組み合わせ。サルが乱暴なことばかり口にするので、ミューラーはいちいち反発し、おまえだって牧師になる前はおれみたいにしゃべったじゃないかと突かれます。この2人の掛け合いの横で、息子を失ったばかりのドクはひとり悲しみに浸っている。さらに旅が進むと、この3人が抱えてきた過去が次第に見えてきます。

     この作品の下敷きはベトナム戦争の時代の3人の米兵のお話、「さらば冬のかもめ」(1973年)という映画です。それから30年経(た)ち、米兵のひとりの子どもがイラク戦争で亡くなったという、いわば後日譚(たん)をつくったわけです。登場人物の設定が違うので続編とは言えませんが、原作は「さらば冬のかもめ」と同じダリル・ポニサン、脚本にもポニサンが加わっています。

     「さらば冬のかもめ」は時代を象徴する作品でした。2人の海軍下士官が、窃盗を働いた少年、メドウズを刑務所に護送することになった。下士官バダスキーはその護送役の一人ですが、たった40ドルを盗んだだけで8年の刑なんてひどすぎると考えて、まだウブなメドウズに人生の歓(よろこ)びを教えてやろうと企てる。これから刑務所に入るんだから少しはいい思いをさせてやろうというわけです。

     この、ルールなんてくそ食らえという感じのバダスキーを演じたジャック・ニコルソンが、絶品でした。口が悪くてきれいごとは大きらい、でも情があって、メドウズを助けてやろうとするんですね。で、もちろん助けることはできないわけで、そこがやるせない。何度見たかしれない傑作です。

     ドクはメドウズ、サルもバダスキーの30年後の姿ですが、乱暴なのに実はやさしいバダスキーと違って、今回のサルは悪意がないのに人を傷つけてしまう。頭部を吹き飛ばされた息子の亡骸(なきがら)をちゃんと見ろなんてドクに求めるくらい。やさしいからこそ現実を突きつけるという損な役です。

     だから、つらい。30年前はちょっと人情があったのに、いまは残酷な運命を突きつけるだけの世界に変わっちゃったんです。そんな現実を突きつけられるのがいやなので、また「さらば冬のかもめ」を見直しました。(東京大教授)

           ◇

     次回は「万引き家族」です。

    ■監督 リチャード・リンクレイター

    ■出演 スティーブ・カレル/ブライアン・クランストン/ローレンス・フィッシュバーン

    ■125分、アメリカ

    ■東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪・大阪ステーションシティシネマほかで公開中

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